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「2005年日本国際博覧会に係る
環境影響評価書(案)」について

2002年3月13日


日本共産党愛知県委員会      
委員長 岩中 正巳

日本共産党愛知県議会議員団   
団長  きしの知子

 3月13日より、「2005年日本国際博覧会に係る環境影響評価書(案)」の縦覧が始まりました。これは、2月28日の博覧会協会の環境影響評価アドバイザー会議と3月4日の経済産業省の2005年日本国際博覧会に係る環境影響評価会の環境影響評価書意見検討会の議論を経て、博覧会協会がまとめたものです。
2005年日本国際博覧会に係る環境影響評価書(案)、いわゆる修正評価書案は、この間の県民や市民団体、自然保護団体の運動により、環境影響評価項目の選定についての県民の意見聴取、修正評価書案への県民、関係市町長、県知事、環境大臣、経済産業大臣の意見を踏まえて、修正評価書を完成し、工事着手に至ることになりました。しかし、先ほど述べた2つの会議でも激論になり、市民団体、自然保護団体からの抗議に示されているように、修正評価書案は、県民や市民団体、自然保護団体、専門家の意見を十分くみつくし、反映したものではなく、手続きの上からも内容の上からも、「環境影響評価法の趣旨を先取りする新しい環境影響評価のモデルを示す」(旧通産省要領)ものとはなっていません。
2000年10月に開かれたヨルダン・アンマン第2回世界自然保護会議の決議が、「1997年のBIE総会において、日本政府が『自然の叡智』をテーマとする環境万博とすることを表明して、2005年国際博覧会の開催国と認められた」と指摘しているように、「環境の時代」といわれている21世紀の初頭に開かれる環境万博が、不十分な環境影響評価のもとで強行されることは許されません。また、このような環境影響評価を、21世紀の日本の環境影響評価のモデルと評価してしまえば、日本における環境影響評価の定着・拡充を損なうものになります。
日本共産党は、改めて、21世紀の初頭に開催される環境万博にふさわしい環境影響評価となるように、また、日本の21世紀の環境影響評価の真のモデルとなるように、愛知万博の環境影響評価の手続きのやり直しを求めます。また、万博開催に向けて環境影響評価の手続きのやり直しが時間的にできないというなら、環境影響評価を不十分ですますのではなく、これまでわが党が主張してきたように、きっぱりと万博を中止して開催を返上すべきです。私たちは、それこそ、環境万博を汚さず、環境の時代にふさわしい選択をしたと、世界から日本が評価されるものと確信します。

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(1)環境影響評価の手続きの関係では、愛知万博計画は、実施計画書(98年10月)段階、準備書段階(99年2月)、評価書段階(99年10月)段階、修正評価書段階(02年3月)とそれぞれ、会場計画の案がことなります。実施計画諸段階と準備書段階では、「海上の森」(瀬戸市)を主たる会場構想としていたのに対し、今は、愛知青少年公園(長久手町)が主たる会場となっており、環境影響評価の対象となる会場の場所が、市町が変わっています。現在の環境影響評価法では、環境影響評価の対象の市町が変われば、無条件に手続きはやり直します。愛知万博が「環境影響評価法の趣旨を先取りする」(旧通産省要領)環境影響評価である以上、評価書の修正ですますことは正しくありません。
万博の環境影響評価要領に則っても、環境負荷の低減が明らかでない限り、環境影響評価の手続きのやり直しは当然です。そもそも、愛知青少年公園そのものの環境影響評価はきちんとやられていないのですから、環境影響評価の再実施をすべきです。また、評価書段階以後も会場計画は変更されており、国際的には、昨年12月に博覧会国際事務局(BIE)で登録承認された計画があります。愛知青少年公園の環境負荷は、この登録承認された計画と比較されるべきですが、基本計画は、この登録承認された計画から、施設配置変更やループ、ゴンドラなど新たな施設の設置などがされている以上、愛知青少年公園の環境負荷の低減が明らかとはいえません。今回の修正評価書案でも「評価書段階での計画熟度が低いため、会場内における環境影響の程度を基本計画と一概に比較することはできない」と指摘しており、環境影響評価の手続きのやり直しは当然といえます。
とくに、今回の修正評価書の手続きをめぐっても、住民意見が正しく反映していない問題が指摘され、評価項目や手法についての住民意見を反映した選定、検討が十分されていないことが専門家から厳しく指摘されており、手続き的に不備であることは明らかです。住民に情報を公開し、意見を求め、その内容を環境影響評価に十分反映させることは、住民に開かれた環境影響評価を行うこととあわせて、環境影響評価の科学性を維持するために欠かすことのできない手続きです。
万博開催を優先し、環境影響評価の手続きの不十分さをそのままにしてすませることは、「環境万博」に値しないばかりか、それを否定する行為であり、断じて認めることはできません。

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(2)環境影響評価の内容の面でも、県民、市民団体、自然保護団体、専門家から厳しい批判が出されています。詳細な検討、批判は今後も県民から寄せられるでしょうが、主な問題点について指摘します。
第一に、オオタカやハチクマなど猛禽類への影響の評価と保護対策が極めて不十分なことです。「海上地区」のオオタカの営巣については、会場変更を含め一定の手立てがされました。しかし、愛知青少年公園周辺に生息するオオタカの保護については、「国際博会場関連オオタカ調査検討会」の討論で、会場計画がオオタカの営巣に影響を与えることを危惧したように、環境省のマニュアルどおりの2営巣期の調査が行なわれておらず、十分な調査や評価、保護策の確立が行なわれているとはいえません。とくに、ハチクマについては、昨年7月に営巣が発見されていたにもかかわらず、県民に情報公開することなく、十分なデータ―がないので評価できないとしていることは言語道断です。
猛禽類は生態系の頂点に位置するもので、猛禽類の調査、保護は、猛禽類のみならず猛禽類の生息を支える生態系の保護を意味し、自然環境保全の上で欠かすことができません。 吉田川流域に生息するゲンジボタルやホトケドジョウに関連事業がどのような影響を与えるかも明確にはなっていません。万博開催が行なわれなかった場合の自然環境との比較である「ゼロ案」の評価がなされていないことも大きな問題です。
第二に、ゴンドラ、ループ、IMTS、各パビリオン、各種のパフォーマンスなど予定される構築物や催事のそれぞれについての評価が行われていません。万博による排水を長久手の浄化センターに依拠せざるを得ないとしていますが、その排水による影響の評価ができていません。また、東部丘陵線(HSST)、会場間を結ぶ連絡道、南北道路など会場アクセスについて、一体的な環境影響評価が行われていません。
博覧会協会は、海上地区の会場の開催時間の制限を決めたといいますが、愛知青少年公園地区も「海上の森」同様の豊かな自然があり、同じような制限は当然必要とされています。また、万博の環境影響評価要領を示した旧通産省の通達によると、「海上の森」のみの会場の際、新住宅市街地開発事業や名古屋瀬戸道路など長期的地域事業について、万博の環境影響評価との連携を図ることを明らかにしていましたが、長久手浄化センターによる排水の影響や会場アクセスは万博関連の長期的地域事業であることは明らかです。当然、万博と一体的な環境影響評価を行うべきです。
第三に、海上地区の会場内に多数存在する古窯などの遺跡の調査、保存対策が不十分です。博覧会協会は、一定の調査を行ったとしていますが、会場内の調査を時間をかけて行ったとはいいがたく、今後、工事に着手することによって、新たな遺跡が発掘される可能性が大きくあります。
また、遺跡の保存については、記録保存でよしとされるものではありません。考古学の専門家は「遺跡の重要性は、どのような場所に、どのような立地で、またどのような形で営まれていたのか、現地においてその景観とともに再現しうることにある」と指摘していますが、万博の会場になることによって遺跡場所が開発されることは、遺跡の保存と矛盾することになります。

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(3)直接には環境影響評価の対象ではありませんが、万博開催による、車の渋滞など会場周辺の住環境の悪化、愛知青少年公園の閉鎖による利用者の不便さ、何より財政負担による県民の雇用・くらし・福祉などの施策の切捨てや県財政破たんの促進など、社会的な影響も広い意味での「環境」として評価される必要があります。
愛知青少年公園は年間約300万人の利用者があり、中には、公式競技に使用できるスケートリンクや子どもの文化を育む児童総合センターなど県民にとって気軽に利用できる大切な施設が数多くあります。この公園が今年の4月から閉鎖され、万博開催後、都市公園として整備しなおされるため、元通り復元されるか明確ではありません。わずか半年のイベント、1500万人の参加者のために、常時利用している、のべ1200万人(閉鎖期間4年)の県民が犠牲にされるのは問題です。
また、愛知万博はこれまで日本で開催されたどの万博よりも地元自治体、県民への負担が重いものです。愛知県は、万博開催のために、「改訂第三次行革大綱」を定め、いっそうの県民犠牲をおしつけようとしています。しかし、県債残高は4兆円を超え、愛知県の失業率は急激に悪化し、今や全国並みとなり、県民のくらしはますます深刻な状況にあります。また、東海豪雨災害や東海地震の震源域の見直しなどによって、県民の防災についての関心はいっそう高まっており、県民の安全を守るために十分な対策を行うことは自治体の大事な役割ですが、財政不足のため多くの自治体が消極的な対応になっています。
日本共産党は、万博・空港など無駄な大型開発をやめて、県民の雇用・福祉・暮らし・防災のために税金を使うことを求めていますが、東京都の世界都市博が開催10ヵ月前に中止できたように、愛知万博を今からやめることは可能です。やめるための国際的な手続きも明確にされています。
日本共産党は、改めて愛知万博を中止し、開催を返上して、県民の雇用・福祉・暮らし・防災を優先する政治を行うために県民と共同して奮闘する決意です。

以上

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