愛知民報

【17.06.18】ビッグ対談 軍事研究・軍学共同「ノー」 大学を平和のとりでに ノーベル物理学賞受賞者益川敏英さんと前愛知教育大学学長松田正久さん

 愛知県大学教職員・研究者日本共産党後援会(学研サポートの会)が6日、名古屋市内でおこなった2017年度例会の企画で、ノーベル物理学賞(2008年)受賞者の益川敏英名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構長・京都大学名誉教授と松田正久前愛知教育大学学長が、科学者と平和運動、軍事研究・軍学共同をテーマに対談しました。両氏は「科学者の社会的責任」を主張しています。対談の一部を紹介します。

ノーベル賞受賞講演で戦争体験語る

 松田 益川さんは「9条科学者の会」の呼びかけ人、日本科学者会議の代表幹事、あいち九条の会の代表世話人です。ノーベル賞の授賞式の記念スピーチでは戦争体験の話をされました。なぜ話されたんでしょうか。

 益川 戦争のことを語れる最後の世代だと思ったんです。僕より下の世代は戦争中生きていたかもしれないけど、記憶にない。「そろそろ語るべきではないかなあ」と思って話しました。
 受賞記念講演の原稿を事前にいろいろな人に見てもらったんですが、「学術的なところでそういう話をすべきではない」と批判する人もいました。
 そうではないんです。受賞講演は政治的な話を積極的にする場なんです。

 松田 話の評判は良かったですよね。

 益川 終戦の5歳ごろ以降の記憶は戦争の記憶です。米国が〝反共の防波堤〟として日本の警察予備隊を作った朝鮮戦争がそうです。
 日本を占領した連合国軍最高司令官マッカーサーは朝鮮半島で原爆を使おうとしました。それに対し世論の反対があった。それでマッカーサーは本国に召還されます。世論の力が戦争への歯止めになってきました。

 

「科学者を市民のデモの輪の中に」

 

 松田 益川さんの研究室には、「科学者は科学者として学問を愛するより前に、まず人間として人類を愛さなければならない」という故・坂田昌一先生の直筆のコピーが飾られています。何を感じて飾られているのですか。

 益川 科学者を市民の輪の中に、デモの中に引きずり出さなければならない。放っておいたら研究室にこもってしまう。科学者にとってもそのほうが楽しいと思います。

 松田 益川さんはどのような経験をされてきましたか。

 益川 私が市民運動に関わり始めたのは大学院生のときでした。長崎県の佐世保に原子力空母が入港すると聞いて、抗議に行きました。核兵器や戦争に反対するお母さんたちが集まった場で講演活動もやりました。

 松田 京都大学職員組合の書記長も務められましたね。

 益川 一番忙しく、充実していた時でした。昼間はキャンパス内を飛び回って組合活動をし、夜中、寝床で論文を読みました。能率が良かった。

 松田 「物理学の研究と平和運動は同じ価値がある」と坂田先生は語っていましたね。

 益川 同じ方向でがんばってきました。

 松田 益川さんは2014年10月、出演したテレビを通して特定秘密保護法を批判しました。

 益川 役所の偉い人が研究室に「心配ない」と説明しに来ました。私は原爆を開発したアメリカの物理学者オッペンハイマーの話をして、「秘密だから何かが隠されている」と言ったら、役人は黙って帰りました。

 松田 「共謀罪」、怖いですね。

 益川 怖いものは怖いといい続けなければなりません。

 

 

軍事研究に手を染めないように運動を

 

 松田 軍事研究・軍学共同について伺います。防衛省は今年度、110億円の予算を組んだ「防衛技術研究推進制度」を実施しています。防衛省が掲げたテーマについて研究を委託する制度です。

 益川 軍事と民生両側面があることから、最初は〝毒性〟がないようにも見えます。でも、防衛省は戦争をやる機関です。毒性がないなんてありえない。

 松田 武器輸出の規制緩和など、安倍政権の軍事強化の動きと無縁ではありません。

 益川 研究者は軍事研究に手を染めてはなりません。

 松田 軍事研究に関与するということは、一時的に研究費が潤うことがあっても〝麻薬〟と同じ。やめられない。研究者として〝死〟を意味します。

 益川 軍事研究に関わることになれば、科学者の市民性、生活性が失われます。安易に手を染めないために運動が必要です。

 松田 日本学術会議は3月、戦争あるいは軍事目的の研究をしないとする1950年、67年の声明を継承することを発表し、防衛省の資金を使うことは装備品開発につながると明記しました。

 益川 各大学に指針を作るよう働きかけています。

 

市民運動と政党の連携に期待

 

 松田 科学者と市民運動の関係について一言。

 益川 科学者は放っておいたらいけない。市民運動が要ります。「ママの会」のように今の運動はインターネットを通じて広がっているものです。組織動員でなく個人として自分の意思で集まっている。すごいことですね。それでも、運動のセンターは必要でしょう。

 松田 日本共産党への期待を伺います。

 益川 市民運動ともタイアップして大いにがんばるべきです。

 松田 今日はありがとうございました。

 

益川敏英京都大名誉教授 名古屋大学卒。同大博士課程修了。同大素粒子宇宙起源研究機構長、京都大学名誉教授。専門は物理学(素粒子理論)。名古屋市出身。77歳。

松田正久前愛知教育大学学長 名古屋大学卒。広島大学大学院博士課程修了。専門は物理学(素粒子理論)。2008年から14年まで愛知教育大学学長。69歳。