文部科学省は3月31日付け官報で告示した新中学校学習指導要領(2021年度実施)の保健体育の武道で、選択種目の例示に「銃剣道」を加えました。銃剣道は旧日本軍の格闘術で、自衛隊の訓練に使われています。「中学校の子どもたちに教えていいのか」など不安や疑問の声が広がっています。元自衛官の有段者に話を聞きました。
心臓を突く
―銃剣道はどのような競技ですか。
水上 木製の「銃」の先にゴムをつけた木銃(もくじゅう)を使います。剣道に似ていますが、「面」「胴」「小手」はなく、有効技は「突き」のみです。
―どこを突くのですか。
水上 左胸の心臓がある部分です。面や胴など防具をつけますが、左胸は厚く作られています。突きがきれいに決まれば「一本」になります。3分の試合時間内に2本先取すると勝ちです。
―自衛隊特有の武道ですか。
水上 私が1992年3月に航空自衛隊に入隊した時、必須科目に武道があり、銃剣道、柔道、剣道から選択できました。「珍しい」という理由で銃剣道を選びました。所属中隊200人弱のうち、7―8割が銃剣道を選択していました。
体に衝撃
―危険を感じたことはありますか。
水上 5―6段の強い人を相手に練習試合をしたことがあります。突きを受け、体全体に衝撃が走りました。相手との距離によっては突き飛ばされます。「これは危ない。けがをするかも知れない」と感じました。
―中学生に「習え」と言えますか。
水上 絶対に反対です。骨が伸びる成長期にやらせるべきではありません。首や頭に衝撃が来ます。骨折もありえます。社会人でも危ない。小中学校の剣道では突きは反則です。銃剣道だったらいいとは思いません。
有段者は自衛官
―どのような人が指導するのでしょうか。
水上 銃剣道は、柔道や剣道、空手のように競技人口が多い種目ではありません。自衛官のエキスパートを招かないと教えられません。段位を持っている人の8―9割が自衛官です。学校現場で教えるとなれば、「戦う集団」とか、「有事即応」とか、戦場に行くことを肯定・美化する考えが子どもたちに広がります。少年兵の育成になりかねません。
突き殺す訓練
―自衛隊では本物の銃剣を使った戦闘訓練もあるとか。
水上 槍の要領で的を突く訓練でした。ヤーッと突いて、バーンと発砲し、もういっぺん突いてとどめを刺します。敵兵を突き殺すというイメージがわく訓練でした。接近戦なので相手から撃ち返されたら終わりです。