「航空自衛隊がイラクでおこなった武装した米兵の輸送活動は憲法9条1項に違反する」とした2008年4月のイラク派兵差止訴訟の名古屋高裁判決から10年。参議院で安倍政権の「海外で戦争する国づくり」追及の先頭に立つ井上さとし日本共産党参院幹事長・国対委員長と、元自衛隊イラク派兵差止訴訟の会代表の池住義憲さんが対談しました。
確定した唯一の違憲判決
池住 2008年4月の名古屋高等裁判所の自衛隊イラク派兵違憲判決から10年ですね。判決後、日本共産党本部に伺い、励ましていただきました。 10年経って改めて思っていることは、政府がやった行為が憲法9条1項に違反するという確定判決としてはこれが戦後唯一の判決だということです。私は戦後の平和運動の中でも大きな意義があると思います。
井上 私はすぐ参院外交防衛委員会で質問しました。政府は当時、「違憲判断は『傍論』だ。裁判自体は国が勝ったんだ」と、判決の意義を薄める言動を繰り返したんですけど、違憲が初めて確定した衝撃は大きかった。だから繰り上げてイラクから撤退しました。
池住 空自のイラク撤退はその年の12月でした。
井上 あの判決が「平和的生存権」を裁判で訴えることができる具体的権利だということを明確にしたことは、その後の平和運動や裁判闘争にとって画期的意義があったと思います。今年8月2日に名古屋地裁に提訴された安保関連法制違憲訴訟は平和的生存権の侵害を訴訟原因のひとつにしていますね。
池住 判決は平和的生存権の具体的権利性を認定しました。
平和でなければ、基本的な権利がないがしろにされ、縮小されるでしょう。だから、平和の中で生きる状態がすべての人権を保障する基底的な権利だと。 そして、戦争がおこる可能性が高くて基本的権利が侵害されるおそれ、恐怖、不安がある場合、その不安からの救済を求めて裁判所に訴えることができる。この道を開いたのが名古屋高裁の違憲判決です。
安倍政権は今まさに安保法制下で、次の海外派兵をねらっています。今の状況にぴったり当てはまる判決内容で市民運動の支えでもあると思います。
井上 裁判では、国は航空自衛隊の輸送実態を明らかにしなかった。そういうなかでも裁判所は、イラク戦争の実態や航空自衛隊の輸送活動の実態を詳細に事実認定して、航空自衛隊の空輸については武力行使と一体であって、政府の憲法解釈や法律解釈からみても違憲だと、明快かつ的確な事実認定をしたと思います。
池住 私たちはアメリカ国防省のホームページの閲覧や川口創弁護団事務局長らとヨルダンに行って聞き取り調査をするなどデータを集めて、裁判所に証拠として提出しました。政府は認めませんでしたが、裁判所は受け止めました。
井上 当時、政府は「国連職員の空輸」とか宣伝していましたが、実は武装米兵の輸送が中心だった。みなさんが本当に努力して積み上げた事実を名古屋高裁が認定しました。その正しさは後の情報公開で示されました。
さらに安保法制の論戦のなかで、陸自の「イラク復興支援活動行動史」を入手し暴露しました。このなかで、当時の番匠幸一郎イラク復興支援群長は「イラク復興支援活動は純然たる軍事作戦であった」と認めています。
池住 今、特定秘密保護法ができて情報が出にくくなっている。私はすごく心配しています。
井上 イラク戦争はまさに戦闘地域での違憲の活動で、空自だけでなく全体としてそうだったにもかかわらず、政府は日報を隠ぺいし国民に隠してきました。
米英はイラク戦争そのものを検証して「大量破壊兵器はなかった」と間違いを認めたのに、日本は一切やっていない。
そのうえに安保法制を強行し、そのなかで戦争中の他国軍の支援について、イラク特措法のときは「非戦闘地域」のみだったのが、「現に戦闘行為が行われている現場以外ならできる」とさらに踏み込んだ。自衛隊が戦闘に巻き込まれる可能性はさらに高まった。
池住 イラク特措法の制定と延長という立法作業をおこなう国会議員に対しても詭弁、隠ぺいを続けてきたことは、歴史に特筆すべきことです。
かつての日本の戦争もそれ以降もそうですね。私たちの「知る権利」が明らかに侵害され続けています。
独裁につながる安保法制
井上 国民の知る権利を奪うことと、戦争する国づくりは一体ですね。 国会に対して資料の改ざん、隠ぺい、虚偽答弁をしていた。根っこには安保法制・戦争法があると思うんです。国会に事実を隠して、一片の閣議決定で憲法解釈そのものを根っこから覆した。国会の上に自分を置いた独裁が根っこにある。 そこから森友・加計問題にしても、国会にウソを言っても当り前というのが政権全体にまん延しました。だからこそ安保法制は廃止といっているんです。
池住 野党も安保法制違憲という方向で一致をしていこうと。私たち市民の方もそうですね。大きなところで一緒にやっていこうと力を合わせています。もっと絆を強めていきたいですよね。
野党と、市民、学生、ママさんたち、女性サークル、そういうところを束ねられるか、今、すごく重要だと思いますね。
平和主義を守るためには、情報がいかに必要なことか。共産党から他の野党全体に話をして、特定秘密保護法を廃止して、情報公開をもっとすすめる施策をしていただきたい。
井上 特定秘密保護法は今の野党共闘勢力はこぞって反対しています。戦争する国づくり体制の大きな柱だという共通の認識があると思うんです。一緒にできると思います。
2項空文化戦争する国に
井上 安倍さんは、憲法改定案の提出を「臨時国会」とはっきりと言いました。重大な局面です。改憲の中心は9条に自衛隊を書き込むことです。安保法制で変質した自衛隊を9条に書き込むことがいちばん大きな問題ではないか。
池住 安倍さんは、9条1項2項は変えないで、そのままにして自衛隊の存在を明記するということですね。
井上 変わらないなら、変える必要はない。問題は、戦争する国になっていいのかということです。
どの世論調査でも自衛隊に対する期待や信頼感は、「災害のときにがんばってくれる」ということです。しかし、書きこまれるのは安保法制で海外での武力行使を大幅に広げた自衛隊です。安保法制の合憲化です。
自衛隊が憲法上の存在になると、様々な制約が取り払われて自衛隊がさらに変わっていく。現憲法は戦争することは考えていない憲法です。軍法裁判など戦争できるものが入っていくことで憲法体系全体が変わる突破口になります。
池住 実質的な2項の空文化ですよね。
井上 安倍さんは昨年5月3日に2020年改憲施行を宣言しました。
安倍政権は今年の通常国会に憲法改正手続きを定めた国民投票法の改正を出してきました。しかし、野党の側の共通の政策には「安倍内閣のもとでの改憲はゆるさない」というのがあります。通常国会で衆議院憲法審査会は2回、あわせて6分しかやらせなかった。
安保法制以来の市民と野党の共闘の発展があって、憲法問題でも共同ができています。
池住 安倍9条改憲ノーの3000万署名は、かなり広まってきていますね。1350万くらい行っています。
進化する野党の国会共闘
池住 野党共闘が進みましたね。
井上 画期的に前に進みました。野党国対委員長連絡会(野国連)が毎週行われて意見交換します。野党共同ヒアリングで政府を呼び、野党合同院内集会は8回やっています。野党共同提出の法案は原発ゼロ法案を含めて20本になりました。国会閉会中でも、政府の障害者雇用の水増し問題や北海道地震対策で野党合同本部会議をやっています。
与党幹部から「共産党が加わっているから手強い」という声が出ました。
池住 心強いですね。野党が通常国会閉会後も重要事項で協議しているんですね。
井上 「あんなにひどい安倍政権がなんで続くんだ」とよく聞きます。世論調査で個々の政策には6、7割が納得していない。国民の7、8割がモリカケ問題で「総理はうそをついている」と思っています。
野党側が安倍政権をこう変えるという姿を示せば、安倍政権を倒そうという声は一気に広がるでしょう。
国会対策上の共同をやったと同時に、政策の面でも共同が明らかに進化しています。共同提出した20本の法案は野党の共同政策として豊かに発展させる土台になります。
通常国会で内閣不信任案を5党1会派の党首会談でやって、共通して出しました。これ自体大きなことで、安倍内閣を倒すことを明確にしました。
参院選に向け市民と野党の共同
池住 その勢いを10月中旬からの臨時国会で永田町に見える形にしていくことです。国会を市民の人たちが取り巻く、市民連合、市民アクションが連なって一緒に声を上げていく。
同時に重要なのは、国政選挙で私たち主権者が安倍自公の3分の2を引きずり下ろさなきゃいけない。来年の7月の参議院選挙に向けて、市民と野党が大きな一致点で一緒になってやっていきたい。
井上 1人区は共闘で勝つ。魅力ある共通政策が大事です。複数区は野党が勝って与党を減らし、比例で日本共産党の躍進を勝ちとる。市民も加わって一致できるところで一緒にやりたいですね。
池住 最終的には国政選挙でもって一票で意思表示するということですね。がんばりましょう。共産党の躍進に期待しています。