児童虐待急増
戦後40年かけて児相は、児童、家族とともに、地域の人々や関係機関、団体が協力しあい、励ましあい、ともに育ちあう関係を築いてきました。
しかし、1990年代、小泉内閣からはじまった新自由主義政策、規制緩和、市場原理第一、競争の促進という「構造改革」により経済とともに日本社会全体がゆがめられていきます。
児童虐待の相談件数は急増しています。2015年度、全国の児相が受け付けた相談のうち虐待は37%を占め、10万件を超えました。16年度は、12万件を上回る見通しです。とくに安倍政権の5年間、虐待相談件数が倍加したことに注目して下さい(グラフ)。
子どもの権利条約以降、日本社会の理解がすすみ、「児童虐待の社会的発見」といわれるように市民の通告が増えた面もあります。
職員忙殺
児童虐待件数増加の主要な背景には、経済的困難、社会的孤立、就労の不安定、ひとり親家庭など貧困や格差を生み出す政治があります。こうした渦に、児童も家族も児相も巻き込まれています。
いま児相の現場は、児童虐待への対応に追われています。警察などから直接児相に持ち込まれる虐待対応が増加(全体の47%は警察から)しています。
児相は夜間も休日も体制強化を求められ、職員は24時間ピリピリ張りつめた勤務です。枕の横に携帯電話を置いて寝て、いつでも現場へ飛んでゆきます。
忙しさに拍車がかかる中で同僚職員が神経をすり減らし精神的疾病で辞めていくという事態が起きています。
あきらめない
児童虐待だけでなく、障がい、非行、不登校、いじめなど児童福祉法にもとづく本来の相談に、児相は対応できないのが現状です。
困難に直面する児童を援助するには、現在の職員はあまりにも不足しています。
忙殺される中で、児相職員は語ります。
児童福祉司のKさん。「貧しい生活を強いられながらも児相に相談に来るたくさんの子どもと保護者の人間模様を通して人とのつながり、ぬくもりの大切さをいっぱい感じながら仕事ができる。しんどいけどがんばれる」
児童心理司のSさん。「虐待があり職権で強制保護した児童の保護者とも継続的なかかわりを通じ、〝対決〟から〝対話、協働〟へと信頼が生み出されていく。こうした仕事の全体をもっと市民に知ってもらいたい」
問題が起これば、すぐに現場へ飛んでいく児童福祉司のNさんは、「どんなに底辺のつらい生活をしている親子にも生きる価値が必ずある。人間として生きる力を持っている。そういう人に寄り添いつづけることが大切。〝あきらめない〟のが児相の仕事」と言います。
戦争する国にさせない
児童相談所の仕事は、ヒューマニズムと民主主義の理想から生まれてきました。すべての人間が平等であり、価値と尊厳を有していることを基盤に置いています。
いま安倍政権がすすめている「戦争する国」づくりとは、決して相容れないものです。
2016年2月、愛知の児童相談所の所長経験者16名を含め100名を超える元・現職員は、「安保法制=戦争法廃止を求めるアピール」を発表(右)。昨年再び「憲法9条改悪に対する児相人の意志」を表明。現在、安倍9条改憲NO!3000万署名を集めています。
両アピールで愛知の児相人は、児童福祉の最悪の侵害、抑圧である戦争に反対する意志を表明。「再び〝歴史の希望としての児童〟の未来をおびやかすことがあってはならない。児童の福祉の最大の保障は『戦争する国』にさせないということ」と強調しています。
このアピールに、開設から80年、100年をめざす児相の思いのすべてが語られています。
(元児童相談所長・加藤俊二)
児相人有志アピール(抜粋)
思い起こしてほしいのです。 あのいまわしい大戦で二千万人をこえるアジアの諸国民、三一〇万人の日本人のいのちがうばわれたことを。 そして、両親を亡くした十二万三千人の戦災孤児の慟哭を。
一九四七年、私たちの先人たちは、この侵略戦争の深い反省の上に〝歴史の希望としての児童〟という痛切な願いを込め、児童福祉法を制定しました。その戦災孤児の「保護と癒し」の仕事からはじまった児童相談所が来年七〇年を迎えようとしています。
私たち愛知の児相人の思いはただ一つ!
児童の福祉の最悪の侵害、抑圧である戦争、虐待、貧困に、私たちは反対します。 ふたたび〝歴史の希望としての児童〟の未来をおびやかすことがあってはならないのです。
児童の福祉の最大の保障は「戦争をする国」にさせないということです。
二〇一六年二月二十一日