愛知民報

【16.10.02】不戦の誓い 憲法の原点 戦争する国めざす自民改憲案 愛知県弁護士会・憲法問題委員会副委員長 長谷川一裕弁護士に聞く

 
 安倍首相は参院選後、「自民党改憲案(2012年4月27日決定)をベースに改憲議論をすすめる」と公言しました。13年に批判書「自民党改憲案を読み解く」(かもがわ出版)を出版した、愛知県弁護士会・憲法問題委員会副委員長の長谷川一裕弁護士に聞きました。(本紙・錦見友徳)

立憲主義守れの声に 逃げた安倍首相

 ー今夏の参院選は。

 長谷川 改憲勢力が衆参両院で3分の2の議席を占め、改憲の発議が可能になりました。安倍さんは本気です。しかし、あの巨大与党であっても選挙中は「改憲」を封印した。国民の世論を前に憲法が争点となることを恐れた結果でしょう。
 昨年来の安保法に反対する市民の運動のなかで「立憲主義」という考えが国民に浸透しました。たたかいを通じて憲法が国民の中にいっそう根付いていくと感じています。

 ー立憲主義は。

 長谷川 1947年、文部省発行の中学校1年生用の社会科教材『あたらしい憲法のはなし』には立憲主義の説明はありません。ある弁護士が60年代に自分が学んだ中学、高校の教科書を調べたが立憲主義は出てこなかったそうです。
 最近の中学校教科書には「国家の権力を制限して、人びとの権利を守る立憲主義」と書かれています。
 私たちの世代は、?戦争放棄?国民主権?基本的人権の尊重が日本国憲法の3本柱と学校で習いました。

9条に国防軍保持 国民総動員体制に

 ―自民改憲草案について。
 
 長谷川 いま憲法9条は1項で戦争の放棄、2項で戦力の不保持をうたっています。現行の9条は2項が大切なのです。戦争が違法であることは国際的にも確立した認識です。その上に2項で一切の戦力を持たないと明記したことが先駆的なのです。 自民改憲案は、2項で「前項は自衛権を妨げるものではない」と書き換え、9条の2として「国防軍」を新設します。 

 ー自民党が新設する緊急事態条項とは。

 長谷川 国民を戦争に動員するものです。
 集団的自衛権行使を認め、安保法制を強行し、9条に国防軍を書き込んでもまだ足りない。国民が横を向いていたのでは戦争はできません。国民に戦争協力を強いる必要があります。緊急事態条項は、国に従う「義務」を国民に課すものです。政府が緊急事態と認めれば、国に従わない人は「非国民」とされかねません。

個人の尊重から 国家のための個人へ

―人権とくらしは。

 長谷川 自民党改憲案は、基本的人権を国が認める範囲内としています。思想・信条の自由も、表現の自由も、国家が制限します。
 基本的人権についてアメリカの法学者が世界188カ国の憲法を比較分析した結果「日本国憲法―今も最先端」と評価しています。「日本国憲法は、公布の時点で最先端であっただけでなく、今でも憲法思想の主流にある」と述べています。自民党改憲案は、最先端をいく憲法を格下げするものです。
 社会保障には、国の責任以前の家族の助け合いが押し付けられます。安倍政権は、社会保障について「自助・共助・公助」といって、公助=国の責任は最後のものと強調し、社会保障改悪をすすめています。改憲案は、自助努力、自己責任をいっそうすすめるものです。

たたかいを通じて 憲法さらに根付く

 ーたたかいは。

 長谷川 安保法強行から一年、その廃止を求める市民の運動は全国で続いています。野党は総選挙でもできる限りの協力することを再確認しました。
 安倍首相と改憲勢力は国会の多数ですが、改憲を語らず、だましとった議席です。
 いずれにしても、草の根からの運動で改憲勢力を包囲し、総選挙で「憲法守れ」の審判を下すことです。
 衆議院は1人区中心の選挙制度で、参院選以上に野党共闘がカギです。1人区で多数を取れば衆院の過半数を握り政権を取ることができます。
 そうなれば、改憲をくい止め、安倍政権を打倒し、さらに国民の中に憲法が深く根付いていく日本社会が見えてきます。