愛知民報

【15.05.24】教科「道徳」への吉田松陰持ち込み 修身復活、侵略思想美化

 愛知憲法会議が5月3日名古屋市内で行った「憲法施行68周年市民のつどい」で高橋哲哉東京大学大学院教授(哲学者)が講演し、江戸時代末期の思想家・吉田松陰が道徳教科化にともなう愛国心教育の目玉になっていることを指摘。「侵略思想の持ち上げにつながる」と批判しました。講演の一部を紹介します。

 安倍首相は、吉田松陰を「もっとも尊敬する人物」と言っています。吉田松陰は松下村塾で日本の進む道を説きました。その弟子のなかから明治政府の要職を担う人物が育ちました。日本近代の先駆者として考えられてきました。戦前、戦中は教育の神様とあがめたてまつられました。

 その吉田松陰が学校現場に入ってきています。安倍内閣は、愛国心教育を導入しようとしています。その目玉が吉田松陰だということに着目する必要があります。

 文部科学省は「私たちの道徳」という教材を作成して全国の小中学生に配っています。
 ポイントは歴史上の偉人を通して道徳を教えるということです。小学校高学年の児童に「誠実」という道徳を教えるために、吉田松陰の「至誠にして動かざる者はいまだこれ有らざるなり」(真心をもって対すれば、動かすことができないものはない)という言葉を紹介しています。

 私は「修身」の復活だと思います。証拠があります。1932年まで使われていた尋常小学校の教科書で、「松下村塾を開いて尊王愛国の精神を養うためにつとめた」「至誠を以て人を教えればどんな人も動かされない者はない」と吉田松陰を紹介しています。現在の道徳教材に書かれていることと同じです。

 歴史認識上も重大です。『幽囚録』という吉田松陰が獄中で書いた教えをまとめたものに重要な一節があります。

 「急いで軍備を増強し、軍艦と大砲を増やせば、北海道もカムチャツカも琉球も奪うことができる。朝鮮、台湾、ルソンまで一手に収めることができる」という考えです。大東亜共栄圏です。明治政府以降の大日本帝国が海外侵略した歴史を予言していたわけです。

 吉田松陰を尊敬するということは「尊王愛国」だけでなく、侵略思想まで美化することにつながります。