学費が払えない学生を支援する奨学金制度が大きく変ぼうしています。日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金は相次ぐ制度改悪により現在は圧倒的に有利子。学生が卒業後に多額の負債を抱え込むケースが社会問題化しています。「愛知県学費と奨学金を考える会」の大内裕和中京大学教授に話を聞きました。(本紙・村瀬和弘)
愛知県学費と奨学金を考える会 大内裕和中京大学教授に聞く
大内教授は「今、無利子の奨学金を借りることは難しくなっています。希望者の8割近くが不採用で、有利子奨学金に頼らざるを得ない。奨学金は事実上の教育ローンです」と指摘します。
日本学生支援機構の奨学金はすべて貸与制。無利子の「第一種奨学金」と有利子の「第二種奨学金」があります。第二種は1984年の法改正で導入されました。無利子貸与制度の補完の名目で、財政が好転したときに廃止するとの付帯決議もついていました。
しかし、大学の学費が上がるなか、有利子制度の枠だけが拡大されました。2012年度、有利子で奨学金を借りている学生は96万人にのぼります。
毎月10万円の有利子奨学金を4年間借りると総額480万円、利率3%で返済総額は640万円を超えます。月賦返済額は約2万7000円。卒業してすぐ返済を始めても完済は43歳になります。
無利子奨学金でも返済は重くのしかかります。自宅から国公立大学へ通った場合、月賦返済額は約1万3000円。返済には14年かかります。教員や大学の研究職についたときの返済免除制度は廃止されました。
返済が一度でも遅れたら延滞金が発生し、その後の返済で元本を減らすことが困難になります。延滞が続けば個人信用情報機関に登録され、クレジットカード作成や住宅ローンを組むことが困難になります。
大内教授は言います。「新社会人が600万円以上の負債を抱えて返済するのは異常です。現行の奨学金制度は将来の多重債務につながるものでありながら、在学中には返済が求められないため、本人が借金するという自覚が持ちにくい。卒業してから厳しい現実に直面するのです」
給付型制度の導入を
「学費が重ければ、国公立大学に行けばよいという理屈はもはや通用しません。国公立大学が安いというのはもはや幻想です」と大内教授。2010年度の国立大学初年度納付金は81万7800円。40年前の約50倍です。
一方で、子どもを大学に通わせる親の家計は年々厳しくなり、世帯年収(中央値)は1990年から100万円以上減りました。
「一人暮らしができず、、自宅から長距離通学する学生が急増しています。保護者が生活費などを仕送りできなくなり、奨学金を受ける学生は全国で5割を超えました」
大内氏は国民に?自己責任?を求める構造改革・新自由主義経済を厳しく批判。「大学卒業後に正規で就職し、終身雇用される前提が崩れている。若者が就職、結婚、子育てに不安を感じないように税金の使い方を変えるべき」といいます。
大内氏は奨学金制度改善の方向として、一定年収以下の人への返済猶予制度、有利子奨学金の無利子化、給付型奨学金の導入を提案しています。
さらに世論と運動を広げようと、昨年秋に学生や市民とともに「愛知県学費と奨学金を考える会」を結成しました。「学生、保護者、奨学金返済中の若者の声も聞きながら、国や自治体に制度改善を働きかけたい」と話しています。