「息子が中3だが、進学したい学校のイメージがわいていないようだ。自転車で通えるところに行ってもらいたいのだが…」「娘が入った高校は同級生の学力が高くてついていくのが大変そう。毎日疲れて帰ってくる」
教員経験者らの有志でつくる民間の子育て・教育研究団体「あいち県民教育研究所」(あいち民研)が8月に開いた高校入試懇談会で、ある保護者は悩みを打ち明けました。
2010年度から公立高校の授業料が無償化され、進学への経済的負担が軽減されました。その一方で「入りたい高校に入れない」「入れそうな高校があっても遠くて通えない」といった問題を抱える事例も少なくありません。
相談会では「学力の高い子がわざと志望校のレベルを落として受けてくる。大丈夫ですか」といった公立高校の複合選抜への不安の声も出されました。
複合選抜とは1989年に導入された推薦入試と一般入試を合わせた入試制度のこと。複数の学校を志願できる一方で、学力の差で進学校と困難校の序列化が進むといった問題点も指摘されてきました。
あいち民研の「高校入試制度と中等教育問題研究部会」の元中学校教員、三浦明夫さんは「学校ごとに学力の上限と下限の幅が薄くなってきている。受験生は第1希望でレベルの高いところを選び、第2希望を手堅いところを選ぶ。その結果、玉突き式に第2希望入学者が増えた。不本意入学も少なくない」といいます。
問題は現行の入試制度の改革議論をどの視点から起こすかです。愛知県は公立高校の入試制度の改革を議論する有識者懇談会を立ち上げ、7月に初会合がありました。共立総合研究所の江口忍副社長は「外から人材を呼び込む?スーパー進学校?が大都市の教育インフラとして必要不可欠」と入試改革のねらいを語り、尾張と三河の2学区に分けて高校配置と入試を行っている2学区制を全県1学区に変えることや、進学校空白地域への重点校設置を主張しました。
三浦さんはこれについて「現場を無視した非常に乱暴な議論」とのべ、特に尾張と三河の2学区を1学区に統合する案について「経済状況の悪化もあり、公立高校を希望する保護者が増えています。学区が統合されれば今まで以上に学校間競争、序列化が進みます。入れるところを選んだ結果、とんでもない遠距離通学者が出かねない」と危惧します。
愛知県で今年3月に中学校を卒業した生徒の高校進学率は97・7%と過去最高。
しかし、三浦さんは「愛知の高校進学率は全国下位」と言います。通信制高校への進学率が4%を超えていますが、その多くは普通高校に進学できず、専修学校に通いながら系列高校の単位をとる通信制の生徒です。この分を引いた進学率は全国最低レベルです。
さらに三浦さんは「不合格になった翌年に再受験する子はわずかです。アルバイトも2割程度。家に閉じこもってしまう子も少なくありません。制度として高校不合格者を出してきた愛知県の責任は重大です。?15の春?に泣いている生徒や保護者がいることを忘れないでほしい」と強調しました。