愛知民報

【12.04.01】インタビュー 橋下「教育改革」どう見る 愛知教育大学 石井拓児准教授 権力の教育介入は違法 教員管理と教育民営化も

 橋下徹大阪市長と同氏が代表をつとめる「大阪維新の会」による教育介入が大問題になっています。大阪府議会では、知事が教育目標を定め、意に沿わない教育委員を免職できる「府教育行政基本条例」が維新、自民、公明の賛成多数で可決されました。橋下氏は反動的な「教育改革」を全国に広げることを目的の一つにして国政進出をねらい、大村秀章愛知県知事もこれに連携する態度です。その問題点について、愛知教育大学の石井拓児准教授に聞きました。(聞き手=村瀬和弘)

 ――橋下「維新」の条例案の問題点は。

 橋下氏が府知事の時に、府議会に提出しようとした「教育基本条例案」は文部科学省から「違法の疑いがある」と指摘されました。知事が学校の目標や教育内容に介入するもので、違法です。

 そこで一部を書き換えて橋下氏の後継の松井一郎府知事が「教育行政基本条例」として議会に提出し、今回成立させました。しかし、この条例も、知事の教育介入という本質は変わっていません。

 戦後の現行憲法は、教育が戦争遂行の手段にされた痛苦の経験から、政治権力の教育介入を禁じ、教育の中立性を保障しました。橋下氏らはこれを逆転させようとしています。

 ――橋下氏らの教育目標は何でしょうか。

 条例前文に「グローバル社会、激化する国際競争に対応できる人材育成」とあります。
 維新の会の大阪市議が新聞紙上で昨年、「私は格差を生んでもよいと思っている。まずは格差を受け入れてでも、秀でた者を育てる必要がある」と発言しています。

 グローバル企業の要請にこたえるエリート育成が目的です。教育基本法が目的とする「人格の完成」ではありません。新自由主義的な改革が橋下改革の基本路線と言えます。
 ――愛知の教育への影響は。

 大村秀章愛知県知事は昨年、橋下氏の呼びかけにこたえて「教育改革」に取り組む意向を語っています。警戒が必要です。

 国民の教育要求が切実さを増し、貧困と閉塞感が広がっているもとで、彼らのファッショ的な手法に「改革」の期待が広がっていると思います。

 しかし、その方向は教育の破壊です。国民と教育労働者や自治体労働者が力を合わせ、これを打破しなければならないと思います。

 ――橋下「教育改革」で学校はどうなると見ますか。

 橋下改革のねらいは、新自由主義的な「教育改革」と一体で、大規模な教育のリストラ、人員整理を強行することです。

 その具体的な手立てが競争と成果主義です。学力テストの結果を公開し、学校間で競争させる。人気のない、定員割れの府立高校は統廃合の対象にするというものです。

 先生も5段階で評価し競争させます。最低評価は必ず5%出すことにし、2回連続して最低評価の教員は分限処分、つまりリストラ(免職)の対象になります。強権的な教職員管理と新自由主義とが結びついている点が恐ろしい。

 ――競争と成果重視の新自由主義教育は財界の要求です。

 大企業や財界には、公教育制度の維持ではなく、民営化への期待があると思います。

 経済界は、道州制を導入し、財政を産業インフラ整備に重点投資することを主張しています。道州制が導入されると、現在は大多数の高校の設置主体となっている都道府県が廃止されることになります。

 道州制による省庁再編で文部科学省の解体まで言われており、国が維持しているすべての公教育の費用を自治体と民間に丸投げすることがねらわれていると思います。

 ――民主的な教育行政の仕組みは。

 親の経済力と子どもの学力は相関しています。家に勉強する場所や机がなく、塾にも通えないとなれば、たちまち困難に陥ります。経済的に貧困な地域から学校がなくなっていく危険があります。

 本当に「民の力」で、開かれた教育行政を実現するのなら、市町村単位ごとに数十人規模の教育委員会を組織して民主的に討議し、どういう教育をつくるかを考える仕組みが必要です。学区単位で学校教育について住民の意見を聞くことも大事です。