愛知県の2012年度予算案の規模は一般会計で2兆2546億円。法人税収が落ち込むなか、県債残高は過去最高の4兆9994億円にのぼります。日本共産党愛知県委員会・林信敏自治体部長に聞きました。
犠牲は県民に
大村秀章知事の2012年度予算案は、河村名古屋市長との共同マニュフェストで公約した「県民税減税」や「医療・健康・福祉への集中投資」を投げ捨て、犠牲を県民と職員に押し付け、県民の血税を大企業応援に集中する予算です。
県の最重点施策は、従来は名ばかりであっても「福祉社会づくり」でした。ところが大村県政は「元気な経済・産業・地域づくり」をトップにすえました。
大村知事は、県政の性格を「県民福祉の増進」から「企業利益の増進」へ、名実ともに切り換えようとしています。
大村予算の姿は、同氏が国政進出で実現をねらう道州制のもとで、福祉や生活支援事業を切り捨て、大企業応援と大型開発事業に特化する「州」の姿を示すものです。
この予算案に自民、民主、「減税日本一愛知」、公明といった県議会の各会派が賛成するなら、行政監視機関としての県議会の存在意義は失われると言わなければなりません。
誤りの拡大
大村予算の目玉は、県民税減税の実施を見送り、そのうちの法人分50億円で「産業空洞化対策減税基金」をつくり、その資金を企業立地補助金の拡大にあてることです。
新設する最高額1件100億円の補助対象となる工場・研究施設の新増設の規模は2100億円。対象事業は航空宇宙や次世代自動車など「高度先端産業」。これほどの規模の大型設備投資ができるのは、巨大企業に限られます。県民の血税を特定大企業に集中させる補助制度です。
100億円を補助する大企業に県が求める新規常用雇用増はわずか20人。大企業立地補助政策が安定雇用の拡大や中小企業の振興につながらず、自治体の財政悪化と福祉切り捨てをもたらすことは、経験済みです。
大企業奉仕の誤りを拡大して繰り返すものです。
中小置き去り
「産業重視」というなら、地域の経済と雇用をささえている中小企業・業者への支援に力を入れるべきです。
ところが、大村予算は、中小企業向けの商工業振興費を前年度の2044億円から2041億円に減らしています。振興費の96%は融資。「県の中小業者対策は融資だけ」という状態が続いています。中小企業経営改善事業費と地場産業事業費はいずれも減額です。
航空宇宙産業振興が県の産業政策の目玉ですが、大資本との関係が強い中小企業団体でも、航空宇宙は中小企業や地域経済への「波及効果は少ない」と見ています。
TPP賛成
新年度の県の農業予算は約73億円。前年度に比べ、青年の新規就農者に給付金を交付する国の新規就農総合支援事業を盛り込んだ分が予算の増額になっています。これを除けば前年度並み。農業と食料自給率を重視しているとは言えません。
最大の問題は、民主党政権がすすめるTPP(環太平洋連携協定)参加。日本がこれに参加すれば、愛知県内の農畜産物の生産額は米の9割減など820億円減少すると県が試算しています。県経済と県民生活への大打撃になります。
ところが、大村知事はTPP参加推進です。「農業振興」を言うなら、TPP参加に反対すべきでしょう。
「経済発展」と言えば、大企業にしか目が向かないようでは、県経済のバランスのとれた発展は望めません。
深堀り行政
大村知事は、「産業空洞化対策減税基金」の50億円を「行革」でひねり出すと言っています。この「行革」とは「県民犠牲」の言い換えです。
大村県政は「深掘り行革」の名で、医療費無料制度への患者一部負担金導入や県営の体育学習交流施設の廃止をくわだて、県財政の流れを住民福祉から大企業応援に徹底的に切り換えようとしています。
大企業立地補助には県と市町村が各5億円計10億円を補助する制度もあります。市町村を大企業誘致競争に駆り立て、市町村がその財源確保のために福祉切り捨て・住民負担増の「行革」を推進するおそれがあります。