生存権がキーワード 納税資力の回復こそ
愛知県は4月、市町村と連携して「愛知県地方税滞納整理機構」を設置しました。
2007年の所得税から住民税への税源移譲によって増加した個人住民税の滞納額を減らすためです。
「機構」には、県内54のうち43自治体が参加し、県と市町村職員の相互併任方式を採用しています。設立の根拠法もない任意組織です。総務省は「徴収や滞納処分の権限はなく、組織が発行する文書は行政文書ではない」と述べています。
参加自治体のホームページには、「機構は滞納処分を前提に差押、公売などを行います」とあります。?税金の取り立て屋?そのものです。
各地の民商、愛商連(愛知県商工団体連合会)には、「差押え予告書がきた」「市町村に分割納付していたが、機構から一括で支払えと迫られた」「商売が続けられなくなると言うと『そんなこと知らん』と聞く耳をもたない」など相談・苦情が相次いでいます。
「機構」は、滞納者の財産状況や暮らし、事業の状況を調べるという徴収手続きの一番肝心な部分を省略。徴収職員自身が、強権的な差押えとか、公売が仕事だと錯覚しています。これはもう行政ではありません。
民商・愛商連は、「機構」の?まず差押えありき?の実態を告発し、納税緩和措置(別項)の適用を権利として主張し、はね返す運動を広げています。
庶民の地方税滞納が増えるのは、なぜでしょうか。
この間、大企業・大資産家減税の一方で、国民には配偶者特別控除や老年者控除廃止、公的年金等の控除縮小、所得税・住民税の定率減税廃止、住民税非課税措置の廃止など増税が繰り返されました。
これがさらに、国保料(税)や介護保険料の負担増に跳ね返り、生活費に食い込む税金や社会保険料を払いきれなくなっています。これでは滞納になるのは当たり前です。「貧困と格差」を生み出した政治の責任ではありませんか。
総務省の「地方税の徴収対策の一層の推進について」(07年3月27日)や、地方の「徴収研修」では、タイヤロック、捜索、インターネット公売をどんどんやれとハッパをかける傾向にあります。
電算化で瞬時に行政処分文書が出来上がり、マニュアル化も進んでいます。差押えをバンバンやる徴収職員が表彰されるという状況もあります。
滞納者は、怖いから市町村へ相談に行きません。払えない税金を押しつけられ、しまいには誓約書まで書かされるからです。
滞納者が?どうにもならない?状況をどう解決したらよいのか。滞納を解決するのは、徴収職員と滞納者本人であり、納税に向けて共同する姿勢こそ大切なのです。
画一的な滞納処分では、資力があっても払わない悪質滞納者との区別はできません。徴収職員は納税緩和措置を前提にして、滞納者に納税資力があるかどうかを正当に判定しなければなりません。
滞納者が、生活保護の適用を受けなければ生活を維持できない程度の場合は、「滞納処分の停止」要件に該当します。
滞納者の状態が「生活保護基準」に該当するかどうかの計算を個別に行い、差押えが禁止される程度の所得状態ならば直ちに滞納処分を停止し、差押えた財産があれば解除しなければなりません。
キーワードは憲法25条の生存権です。公務労働は、国民の生存権を保障することが仕事です。時には債務整理も援助して税金を納める力を回復しなければなりません。さらに生活保護へとつなげることも必要になります。
この滞納問題をきっかけに税制全般を考えて、生存権を守ることが重要です。
納税緩和措置とは
自治体の長は、地方税法15条の各項で次のような「納税緩和措置」(要旨)ができる。
【徴収猶予】滞納税の納税期日を延期する
【換価の猶予】滞納後の差押え処分を延期・解除
【滞納処分の停止】納税義務をなくす