河村たかし市長は、就任後、とくに昨秋以来、「市政改革」を強引に進めてきました。今、名古屋のこの問題は、全国的に影響を及ぼすものとして、報道においても大きく注目されるところとなっています。
私たち13名は、去る1月8日、河村市長が「改革」のテーマとしているものの中で、とくに市議会議員の定数半減の提案にしぼって、民主主義の根幹の破壊につながるものとして明確に反対する共同アピールを出しました。今日までに、3000名を超える皆さんから賛同をいただいたことに、厚くお礼を申し上げます。そのお陰もあって、この4か月で、状況に重要な変化がみられました。現時点に立って、中間的に整理をし、改めて訴えをするものです。
何より、河村市政の柱が、大企業・富裕層を優遇し、反面、福祉や市民サービスを削減するという、民衆犠牲の「構造改革」の徹底にあることがすっかり明らかになったといえます。それは、市長が1丁目1番地に位置づけた市民税減税にもっともはっきりと示されています。「減税」ということで、市民の支持はなお高いものがありますが、「一律10%」の恒久減税というのは、大企業・富裕層を名古屋に呼ぶことを最大の目的にした仕組みです。市議会が、これを1年限りのものに歯止めをかけたのは、真っ当なことです。
市長の福祉後退・民営化一辺倒の路線には、市民は強く抵抗し、保育料値上げや自動車図書館廃止を撤回させました。住民が地方自治の主人公であることを示した、大切な成果であるといえます。
河村政治の特徴は、この金持ち本位・福祉後退の構造改革政策と並んで、またそれを容易に遂行するために、地方自治の機構そのものの転換を図ろうとするところにあります。地域の主人公である住民が議会(議員)と首長の両者を直接に選挙する「二元代表制」が憲法の定めですが、河村市長は、二元代表制は「立法ミス」だとしてこれを尊重せず、議会の弱体化と市長への権力集中を主張します。
その実現のために河村市長が唱える「議会改革」の冒頭に置かれたものが、議員定数の半減です。これが、少数者を議会から閉め出して民意の反映を妨げ、結局議会を有名無実化するものであることは明らかです。議会が全員一致で、議員定数は「各層の多様な民意を市政に反映させるために必要な人数」であるべきだとの規定をもつ議会基本条例(※)を制定した上で、市長提案を拒否したのは、まことに道理にかなったこととして受けとめられています。
河村市長の議会批判のもう一つの重点は、議員報酬の半減にあります。これは、市民の生活感情から、加えて市長が自らの報酬を切り下げた上での提案であるため、市民の中に強い浸透力をもっていますが、議会はこれを拒否しました。議会が制定した基本条例は、議員をボランティアに位置づける市長の考えを正当にも拒否して、「議員活動に専念できる制度的な保障」を一考察要素にして決めるとしましたが、それにとどまっています。
私たちは、具体的な額を提案する立場ではないと考えますので、さしあたり、議会に対して、市民の生活感情を正しく汲んだ額を全会一致で早急に市民に提示することを希望しておきたいと思います。
なお、報酬に加えて、河村市長は「政務調査費」の廃止を主張していましたが、これは、会派ごとの議会活動に必要不可欠のものであり、使途を本来の目的に限定した上で適切な額を定めて維持し、その額を全面公開することが重要です。市議会は、それに踏み切りました。
また、「費用弁償」も問題になっていましたが、市議会は、現在では必要でなくなったものとして廃止しました。ここにも、名古屋市議会が、大切な前進を遂げていることを確認することができます。
こうした攻防を経て、河村市長は、議会が減税を1年限りとしたこと、議員定数の半減と報酬の半減を否決したことに対して、再度の審議を求めるべく4月臨時議会を招集しました。ただ、再提案は報酬半減にしぼり、定数の審議は棚上げにしました。しかし、定数半減方針が撤回されたわけではありません。
それどころか、市長は、その提案をことごとく拒否する市議会を、住民の直接請求によって解散(リコール)して再選挙をおこない、新しい、河村与党が多数を占める議会で市長提案の半減条例を成立させる、という方針をとるであろうことが考えられます。
私たちは、民意の反映の確保、ひいては民主主義の擁護の観点から、支持政党を超えて定数半減反対の一点で手をつなぐ構えをひきつづき維持し、さらに強化して、あらゆる事態に備えなければならないと考えます。
とりわけて留意すべきは、河村市長が、議会解散の請求という、本来市民が自発的・自主的に用いるべき直接民主主義の制度を、自身の主張を実現する手段として悪用しようとしていることです。
すでに、そのために自転車での街宣・街頭演説を始めていますが、これは、市長の強権体制づくりのために市民を動員しようとする意図を、自ら明らかにしたものです。この、民主主義を逆手にとる政治家の出現には、最大限の警戒が必要です。
もっとも、この間、河村市長の支持団体の中には軋轢が生じ、運動に困難を抱えたようです。しかし、これを過大視すべきではないと思います。むしろ、独裁政治へと向かう流れの中で住民動員が大きなうねりとなることは、歴史が幾度も示してきたところです。中でも、河村市長は、市民の拍手喝采を獲得する術に長けています。これにつき、注意を怠ることなく、市民の皆さんに広くその本質を伝え、しかも、より積極的に、要求にもとづく運動で市民の多数を獲得することが課題となっていると考えます。
この4か月間で、名古屋市議会は、大きな成長の契機を得て、道理のない河村流「議会改革」に、全会一致で対峙する姿勢を示すようになりました。
長年、オール与党体制をとりつづけて市民の不信を買ってきた議会は、遅まきながら、独裁市長の登場で目覚め、存亡を賭けて議会の本来の役割を追求しており、期待をもつことができます。
全会一致で制定した議会基本条例からも、憲法の二元代表制を守り抜き、とりわけ市民のための議会につくりかえようとする姿勢を読み取ることができます。
市議会は、ひきつづき住民投票条例の制定にもとりくんでいますが、住民投票が強権的政策・独裁政治の正当化に使われないようにする工夫を施しつつ、住民自治に即した制度がつくられることを望みたいと思います。
議会には、こうして、過去への自省を踏まえて、全会一致で高い志をもった真の改革方針を市民に示し、支持を求めることが、今ますます必要とされています。市民の、くらし・福祉の要求が「議会を守れ」の運動へと高まったとき、勝利の展望が開けるものと確信します。
私たち13名は、議員定数半減反対を呼びかけてアピールの原点に立って、その訴えを貫き、あわせて市民本位の市政のあり方を市民の皆さんとともに考え続けることをお約束します。
2010年5月8日
アピールから4カ月目に
立教大学大学院教授・池住義憲、神学研究者・うのていを、消費税をなくす全国の会常任世話人・大島良満、ジャーナリスト会議東海事務局・加藤剛、真宗大谷派宗議会議員・木全和博、愛知大学法科大学院教授・小林武、元愛知県評議長・成瀬昇、元名古屋市労連委員長・服部信夫、弁護士・原山恵子、名古屋大学名誉教授・水田洋、北病院院長・医師・矢崎正一、やまうち内科院長・医師・山内一征、俳優・若尾隆子