今年4月の名古屋市長選挙で当選した河村たかし市長(元民主党衆議院議員)の最大公約「市民税10%減税」を来年度から実施するための基本条例案が、6月と9月の名古屋市議会で継続審査となっています。野党の自民党、公明党、日本共産党だけでなく、与党の民主党の賛成も得られない状況が続いています。9月2日、同市長が減税による減収の穴を埋めるため、職員人件費の削減に加え、福祉の予算の一律大幅カット方針をうち出したことで、市民から「福祉削るな」「市長は何を考えているのか」と批判の声があがっています。自公政権による庶民増税や社会保障の後退、昨年秋のリーマンショック後の景気悪化で市民の重税感や生活不安がつのるなか、「税金で食っている方は天国、税金を納めている方は地獄」という河村市長の扇動的な発言で宣伝された「市民税10%減税」――何が問題になっているのでしょうか。
定率に絞る
河村氏のマニフェストは「減税目標額は、例えば市民税2500億円の10%、250億円」、「減税の姿として、定率減税(金持ちはゼロ)、定額減税、子育て減税、勤労者減税、社会保障減税、それらのミックスなどもあり」と、さまざまなあり方を列記していました。
市長選挙で圧勝した河村市長は副市長を責任者とする減税プロジェクトチームを立ち上げ、ここで減税案を検討。市議会の6月定例会にその基本条例案を出しました。
減税の規模は、個人と法人の市民税10%、2010年度から実施という柱です。
「子育て減税、勤労者減税、社会保障減税」は消えました。大企業や大金持ちも恩恵を受ける「減税の姿」になりました。
上厚下薄
一律10%減税ですから計算は単純。所得が前年と同じなら、前年に納めた市民税の10%が減るわけです。
定率減税方式は、もうけが大きいほど、納税額が多いほど、減税額が大きくなります。減税の恩恵は明らかに上に厚く下に薄くなります。
大企業に有利
市民税は法人もあります。巨大企業の減税は年額1億円を超えると見込まれています。トヨタ自動車はもっとも減税の恩恵を受けます。河村市長は、市の副市長と経営アドバイザーにトヨタの重役出身者をすえました。
一方、多くの中小企業の年間減税額は5千円程度。実は市内の中小企業のおよそ半分は欠損状態(赤字)。市内の納税企業の半数は法人市民税の均等割しか納めていないので、減税額は年5000円にとどまります。
「公約違反」
個人市民税はどうか。市当局の議会答弁によると最高額の納税者の減税額は2千万円を超えます。毎年、ひとりに高級自動車数台分が還元されることになります。
市長は「1世帯平均1万5千円の減税」といいます。この平均額になるのは年収637万円以上の部分。
年収5百万円のサラリーマン4人家族の年間減税額は9500円。一カ月にすると800円。家族一人では200円です。
個人市民税には均等割と所得割があり、均等割だけ納める低所得層の場合は年間わずか300円。市民税非課税の約40万人は減税ゼロです。
「金持ちはゼロ」というマニフェストの言葉は、どうみても虚言です。「公約違反」の声も出ています。
格差拡大
「納税額に応じた減税額は当然」という見方もあるでしょう。しかし、その見方でやれば富むものはさらに富むことになり、格差は拡大します。
いま政治に求められているのは「貧困と格差」の是正。減税をやるなら、「上厚下薄」でなく「上薄下厚」の所得再配分で、生活悪化に苦しむ市民を応援するべきです。
市民から「河村市長には、ほんとうの政治がない」という批判が起きています。
「フィクション」
なぜ、大企業・大金持ちに有利な“逆立ち減税”になるのか。
減税基本条例案の目的を見ると、「市民生活の支援及び地域経済の活性化を図るとともに、将来の地域経済の発展に資するため」とあります。河村流の「減税」が企業支援を重視していることがうかがえます。
「日本一税金の安い街ナゴヤ」を看板に、大企業と高額所得者を名古屋に呼び寄せる、これがすすめばナゴヤ経済が発展するという構想です。市長は市職員に企業誘致セールスのハッパをかけます。果たして「市民税10%減税」のメリットで、大企業や高額納税者が費用をかけて名古屋市内に事業所や住居を構えるでしょうか。
自治体の経済政策に詳しい林信敏日本共産党元県議は「河村構想はフィクションです。都市同士の減税競争による大企業・金持ちの誘致合戦は破たんします。不況の影響で税収が落ち込んでいるなか、財政悪化と福祉削減という形でツケが市民に回されるおそれがあります」と指摘しています。
「市民税10%減税」の基本条例案が継続審査のまま、河村市長は11月20日開会予定の名古屋市会11月定例会に「減税」の中身を盛り込んだ条例案を提出しようとしています。