愛知民報

【09.08.09】アスベスト被害 補償判決 中部電力に安全注意義務違反 訴訟原告代理人 渥美玲子弁護士に聞く 低濃度でも発症 下請け含め職歴チェックを

 渥美玲子弁護士
 定年退職後に中部電力元社員がアスベスト(石綿)による中皮腫で死亡したのは在職中に同社が安全注意義務を怠ったためとして、同社に対し3000万円の損害賠償を求める判決が7月7日、名古屋地方裁判所でありました。中電はこれを不服として控訴しましたが、電力会社では発電・送電設備にぼう大な量のアスベスト含有資材が使用され、隠れた被害者が少なくないといわれます。アスベスト被害について、原告代理人の渥美玲子弁護士に聞きました。

救済手続きは

 アスベストによる健康被害を救済する法的手続きは3つあります。1つ目はアスベスト新法による補償です。これは労働者ではなく近隣住民が対象です。2つ目は労災手続き。3つ目は企業に対する損害賠償請求です。今回の裁判は企業に対する損害賠償請求です。裁判による企業責任の追及です。

 アスベストは古くから使用されており、「かぐや姫」の中で出てくる「火鼠の皮衣」とはアスベスト布ともいわれています。日本でも採掘されていましたが、外国から輸入されて大量に使用されてきました。

マスクもつけずに

 今回の裁判の原告は1958年に中部電力に入社しました。高度経済成長に向かう時期でアスベストがたくさん使われ、火力発電所ではアスベストの粉じんが舞っているなかでマスク一つせずに働いてきました。原告は運転業務についていましたが、アスベストにさらされつづけてきました。

 判決は、第一に、アスベストを直接扱う仕事ではなくても、粉じんが舞っている場所での作業はばくろ作業に該当すると判断しました。

 第二に、判決は企業の責任を認めました。いつの時代から企業がアスベストの健康被害を認識したかについて、1960年の旧じん肺法ができたころには、アスベストも粉じんの一種ですので、会社も健康被害があると認識していたと認定しました。

 それ以前からも研究論文も多いですし、中部電力の前身は国策会社ですから古いノウハウは全部吸収しています。「知らない」とは言えません。

相談、検診を

 発電所ではあらゆるところでアスベストが使われています。中部電力は東海4県だけでもかなりの数の発電所があるので、下請けも含めて関連労働者はすぐに検診を受けたほうがいいです。

 退職してから肺がんで亡くなられた方の多くがアスベスト関連疾患ではないかとさえ思っています。中皮腫は低濃度のばくろでも発症します。今後も患者が出る可能性は高いです。

 患者さんから職歴を聞くことが重要です。行政に望むのはアスベスト関連の検診料の無料化です。

 弁護団では電話相談活動も受けています。心当たりのある人は相談してください。052・331・9054(金山総合法律事務所)

アスベスト(石綿)

 細かくほぐすと綿のような繊維状になる鉱物。摩擦に強く、電気を通さず、燃えず、高熱に耐えるため、工業原料として広く使用されてきた。その繊維は肺の奥深くに入り込み、じん肺や中皮腫などの健康被害を起こす。中皮腫とは内臓を包む膜に発生する悪性腫瘍。潜伏期間が長い。