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“脱万博”知事で中止返上を

愛知万博の現段階と行く末

堀一県議に聞く

2002年11月3日 「愛知民報」

堀一県議

 鈴木礼治前知事が地域開発の起爆剤として打ち上げてから14年。傷だらけになりながらも、2005年愛知万博は10月17日、「起工式」を終えました。愛知万博の現段階と行く末は――。日本共産党の堀一県議に聞きました。




開発型県政が「環境万博」とは

 ――海上の森での新住宅開発事業の中止、愛知青少年公園への主会場の変更、“堺屋騒動”とすったもんだの末の起工式でした。

  県民運動で大きく変えさせてきましたが、指摘してきた問題が解決したわけでもなく、むしろ矛盾は激化しています。瀬戸市の上之山団地住民が「空からプライバシーをのぞかれる」と反対しているゴンドラ問題はこじれにこじれつつあります。

 「環境の影響を低減させる」として造ろうとしているゴンドラがだめになれば、博覧会協会が認めているようにシャトルバス輸送による環境悪化は明らかです。環境アセスメントのやり直しが必要となり、2会場で開催するという「基本計画」はこんごも揺らぐ可能性があります。

 長久手町のオヨナガ池跡地に万博宿舎を建設する問題、春日井市のシャトルバス駐車場など地元・県民合意なしのしゃにむなすすめ方が目立ってきています。

 会場周辺部の東部丘陵線や道路建設工事で環境破壊がすすみ、地域住民からは慢性渋滞、公害を心配する声がひろがっています。

 愛知万博は基本設計、実施設計、実施計画をへて03年度から工事に入ります。来年2月の知事選は、矛盾だらけの実施計画にゴーサインを出すのか、それとも万博返上の知事を選んで中止させるのか、最大のヤマ場にさしかかります。

 

トヨタの宣伝

 ――起工式で小泉純一郎首相は「自然を大事にして今世紀最初の万国博覧会にふさわしものにしていきたい」といい、神田真秋知事は「自然との共生という新たなモデルを世界に発信することが使命」といいました。しかし万博で何を見せるのか、いまだ輪郭さえ見えてきません。

  当初は「環境万博」といい、“堺屋構想”では「環境では人が集まらない」と環境破壊の大万博を打ち上げ、それが県民に批判されてふたたび「環境博」と言い始めています。

 さきのヨハネスブルグでの世界環境会議では、これ以上地球の自然を壊さない、再生をはかっていこうという方向が示されました。しかし、愛知万博ではオオタカ、ハチクマは追い払われる危機に直面しています。会場周辺の木を伐採して人工餌場をつくるといいます。これから始まる会場工事は海上の森でも青少年公園でも自然環境が破壊されていく危険をともなっています。

 ――豊田章一郎・博覧会協会会長は「ディズニーランドよりいいものをつくる」といっています。「環境万博」といいながら、結局は巨大スクリーンに実物大のクジラが泳ぐ姿を放映するとか、大規模コンサートを聞くなど従来型のイベント頼りです。

  何を称して「環境万博」といっているかというと、会場内で隊列バス(IMTS)を走らせるとか、2会場間をつなぐ燃料電池バスなどトヨタの環境戦略の宣伝の場として利用しようという方向がますますつよまっているのが特徴です。

 ――瀬戸市が8月、東京でおこなった調査では「愛知万博を知っている」は28%でした。中日新聞の「小学5年100人アンケート」では「興味・関心はない」が53%を占めました。「愛・地球博」と名称を変え、県民の税金をふんだんに使ってPRに努めていますが、いっこうに盛り上がりません。「環境」をテーマに会場に足を運びたくなるような目玉がでてくる可能性は?

  ありません。トヨタのエコカーが環境博の目玉というのですから。いまめざすとすれば、破壊された環境の再生ではないでしょうか。21世紀は自然の再生だといっているのに、県や博覧会協会の環境にたいする態度は20世紀型です。

 神田知事の再選出馬表明は、万博・空港後、あらたな開発をおこなうという宣言でした。環境破壊の第2東名、リニア新幹線、伊勢湾口道路、設楽ダム、首都機能移転もやれという主張です。神田知事がめざす政治は「環境万博」の理念とは逆の方向を向いています。そういう県政のもとで「環境博」などというものが成功するはずはないし、世界からも信用されないでしょう。

県民犠牲重く

 ――福祉切り捨て、職員の給料削減にもうがまんができないとの声があがっています。このまま開催すれば、万博をやってひどい目にあったということになるのでは?

  全国の都道府県が公共事業費を減らしているのに、神田県政はダントツの前年度比10%近い増加です。赤字財政の中で万博・空港を聖域化し、福祉、教育などの予算を削ってきました。借金に借金を重ね、ついには県民債を発行して直接県民から借金するところまできています。開催予定の05年に向け、さらに重い県民犠牲が強いられていくでしょう。

 一方で、焦眉の課題となっている東海地震対策では、倒壊する危険のある木造建築物76万戸の無料耐震診断(県負担分1戸7500円)の今年度予算はたった3千戸分。このペースでは全部終わるのに253年かかります。地震はとっくに来ているではないですか。

 神田県政は、これまでの県政の中でもっともダーティーな県政として有名になっています。汚職、談合疑惑とモラルハザードがまん延しています。それにたいしてオール与党からは批判の声さえあがらない異常事態になっています。

知事選が好機

 ――万博は中止できますか。

  知事がやめるといえば、できます。04年に予定されていたパリ映像博は総選挙で政権が交代してすぐ中止してしまいました。会場はW杯サッカーをやったところで交通至便、愛知万博のような自然破壊もありませんでした。それを参加国が見込めないというのと財政負担が重いということで中止しました。国際的な信用を失うから中止できないというのはまったくのウソ。BIE(国際博覧会事務局)の規定でいつでも返上できます。

 世界の人びとが万博をもとめているかというと、98年のリスボン博は1千万人止まり、「環境」をテーマにした00年のハノーバー博は4千万人の目標に1800万人で1200億円の赤字、ことしのオランダ国際園芸博はテーマがはっきりしているのに目標300万人を割りました。

 ――愛知万博は目標100カ国で、すでに参加国が50カ国になったといっていますが。

  発展途上国が大半で、パビリオンの建設費を出してやるだけでなく、イベントの支援まで検討しています。超大国のアメリカはBIEから撤退し、国としては万博に参加しないと決めています。世界の流れは“脱万博”です。

 愛知県民にとって都合がいいのは、来年の知事選でこの流れに乗ることができるということです。東京の都市博が10カ月前に中止されたように、新知事が中止の公約をかかげて県民の信を得れば、当然県民の意思として中止の方向に向かうでしょう。

 万博をやめたら、少なく見積もっても03年度以降の支出予定706億円の節約ができます。小中学校全クラスの30人学級で274億円、乳幼児医療費の就学前まで無料化で40億円、特別養護老人ホームの待機者1万人の解消に200億円、計514億円です。無料耐震診断も50億円で実施できます。万博をやめれば県民の命とくらしにかかわる切実な施策を実行できます。

 たった6カ月で取り壊してしまうゴンドラに50億円、県パビリオンに40億円など万博のために税金を使う方がいいのか、それとも県民の安全・安心を確保する方がいいのか。どちらを選択すべきかは一目瞭然です。


愛知万博をめぐる経過

1988
10
鈴木礼治知事(当時)が万博誘致を表明

90
2
県が「あいち学術研究開発ゾーン」の中核となる瀬戸市の海上の森を候補地に選定

97
6
BIE総会で日本が開催国に決定

98
3
万博開催の是非を問う県民投票条例の制定を求める署名約13万人に(県議会で否決)

99
2
知事選で万博反対を公約した影山健氏が約80万票を獲得<

5
海上の森でオオタカの営巣を確認

6
会場予定地に愛知青少年公園を追加

00
1
BIEが新住宅開発事業など海上の森の跡地利用を「開発至上主義」と批判していたことが 発覚

4
県が新住宅開発事業、名古屋瀬戸道路計画の一部を中止すると発表。自然保護団体 などをふくむ愛知万博検討会議が発足

5
愛知万博開催の是非を問う県民投票条例の制定を求める署名が30万人余に(県議会で 否決)

7
検討会議の第8回会合で海上の森南会場を0・65ヘクタールとする計画案に合意

9
博覧会協会が会場建設費1350億円、会場運営費550億円とする万博計画を決定

12
BIE総会で開催登録を承認。革新県政の会などが代表団を派遣し、総会参加者に万博見直しを働きかけるとともに国際的自然保護団体と懇談

01
6
博覧会協会最高顧問の堺屋太一氏がヘクタールビジョンなどの巨大施設、青少年公園会場拡大を提案。批判をあび最高顧問を辞任

12
愛知万博基本計画を決定

02
6
環境影響修正評価書を公告

10
起工式

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