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【03.05.18】県政の窓 中部国際空港建設…名古屋空港の将来は?
“黒字空港”を捨て“赤字空港”つくる
戦争支援の拠点飛行場化 有事法制でつよまる

5月18日「愛知民報」

林のぶとし(日本共産党愛知県委員会自治体部長・前県議)

県民負担で赤字必至の小型機専用に

ここで論じるのは2005年に予定されている中部国際空港開港後の名古屋空港のあり方をめぐる問題です。

大空港をスクラップ

 西春日井郡豊山町にある名古屋空港はメートルの滑走路を持ち、年間1000万人超の航空旅客を扱う日本有数の大空港です。国内線・国際線の定期便、写真撮影や報道、防災用などの小型機のほか、空港東側にある航空自衛隊小牧基地の所属機が常時使用する軍民共用の飛行場です。総面積約330ヘクタールのうち、約210ヘクタールが国土交通省、約120ヘクタールが防衛庁の所管です。

 中部国際空港と名古屋空港は表裏の関係にあります。中部国際空港建設事業は国レベルから見ると、国土交通大臣が設置・管理している第2種空港としての名古屋空港を廃止し、これに代わって、国土交通大臣が指定する中部国際空港株式会社が設置・管理する第1種空港を常滑沖の会場に建設するものです。大規模空港のスクラップ・アンド・ビルド政策といえます。

 空港施設が基本的に整備されている黒字の名古屋空港を捨て、巨額の新規投資が必要な赤字必至の中部国際空港をつくるという事業です。

浪費の悪循環をもたらす巨大開発

 中部国際空港建設とその関連事業は、過大な需要予測にもとづく浪費型の大型公共事業です。この事業は、「景気対策」として重視されてきたように、ゼネコンなど関係財界を支援するための公共投資という性格をもっています。中部国際空港は海上空港ですから、山を崩して土砂を採り、それで海を埋め立てるという自然の大規模な改変をもたらす点も重大です。

 中部国際空港に世界中から航空路線が集中するという「国際ハブ空港」論は破たんしています。かつて愛知県企画部航空対策局長を務め、現在、国土交通省中部運輸局長である平山芳昭氏は最近、「国際ハブ空港は成り立たない」(中部空港調査会報「CARF」2003年3月号)と発言しています。

 現在、空港島の上に旅客ターミナルの骨組みが姿を現し、主要なアクセス手段である道路や鉄道の建設工事がすすんでいますが、過大な旅客見込みと現実との矛盾が露呈しています。建設推進論者からも、首都圏や関西圏より国際航空旅客の少ない中部地方の現状では、名古屋空港の位置を移して拡張しただけの事業に終わりかねないという不安の声があがっています。

 巨額負債に苦しむ関西国際空港より建設費が安いとはいえ、旅客需要が少ないため、中部国際空港会社幹部は空港経営の厳しさを強調しています。航空需要の不足をカバーするため、「需要創出」が合言葉になっています。中部財界や自民党県政は、ポスト愛知万博戦略として中部国際空港を核とした「国際交流都市圏づくり」を押し出し、「需要創出」につながる新たな大規模開発を強調しています。

 こうした浪費型公共事業の悪循環は、関係自治体のさらなる「開発会社」化をうながし、自治体財政の危機と福祉・住民サービスの縮減を加速させる危険があります。

自治体負担のGA空港

 そのような中部国際空港建設の裏側として名古屋空港問題があります。

 愛知県は新空港開港にともない、県営の小型機専用飛行場(GA=ゼネラル・アビエーション空港)として空港機能の存続をはかるとしています。不要となる国際線ターミナルビルなどの空港施設や広大な用地を利用し、広域防災拠点の整備や大型商業・集客施設の誘致による地域振興をめざすとしています。

 小型機専用飛行場としての名古屋空港は、地方都市への航空旅客を扱う60席以下の小型旅客機によるコミューター航空、報道や遊覧飛行などの産業航空、警察、消防などの公共航空、社有機や自家用機などのビジネス航空を扱います。

 航空旅客の主力はコミューター航空ですが、日本有数の大空港が、中部国際空港開港後は県の試算でも年間わずか46万8000人の旅客しか集まらない飛行場になるのです。これは1日当たり約1300人。町のスーパーの来客数程度です。飛来するビジネス機は年間300機と予測しています。1日当り1機にもなりません。

 このようなGA空港なら、ジャンボ機が利用できる着陸帯やエプロン(駐機スペース)、年間700万人に対応できる現国内線ターミナルビルは余りに過大ですが、県はそれらを取得し、管理運営を第3セクターの空港管理会社に委託することを検討しています。

 GA飛行場の管理運営に、国の援助はなく赤字必至です。年間の維持管理費約6億円にたいし、着陸料収入は7000万円程度と試算されています。県は、防衛庁にたいし維持管理費の負担を求めていると報道されていますが、同庁は消防や除雪などの役務の提供や着陸料の支払いには応じるが、維持管理費は分担できないといっているといわれています。

 県直営でなく3セク方式にすることは、周辺市町もこの3セクに参加させ、赤字補てんのために関係市町に財政出動させるための受け皿づくりというねらいもあるでしょう。

 県は昨年10月、「GA空港基本計画検討委員会」を発足させました。今年度中に基本計画を策定する予定です。

先行き不透明の地域振興

 中部国際空港建設は、愛知県をはじめ関係自治体に重い負担を強いる事業です。自治体は、空港本体の建設負担金に加え、道路や鉄道などの空港アクセスや「臨空都市」の整備事業費を負担しつつあります。さらに、名古屋空港の用地買い取りや小型機専用飛行場化のための再整備、地域振興開発事業の費用があります。

 愛知県は、名古屋空港の着陸帯約110ヘクタール、GA空港用地約60ヘクタール、合わせて約170ヘクタールと国内線ターミナルビルなど広大な用地を国から買い取る予定です。買い取り価格は未定ですが、時価が基準です。用地代からこれまで負担してきた空港整備費を差し引いたとしても、県の負担はばく大です。

 この4月、春日井市、小牧市、豊山町でつくる「名古屋空港の活用に関する調査会」が出した中間報告は、現在の名古屋空港を大きく上回る年間約1700万人の集客を見込む開発構想を打ち出しましたが、GA空港自体にそのような集客力はありません。ショッピングセンターや展示施設を誘致するとしていますが見通しは立っていません。

 名古屋空港のGA空港化と地域振興策は、関係市町の航空関係税収が激減するなかで、空港施設の維持と再開発のための新たな費用負担を招きかねません。

空中給油機配備の危険

 名古屋空港の設置管理者が県となっても、空港利用の主役は軍用機です。名古屋空港はすでに、航空自衛隊の海外活動の拠点空港となっています。小牧基地に駐屯する第1輸送航空隊所属のC130H大型輸送機は、PKO法(国連平和維持活動等協力法)にもとづき,カンボジアやモザンビーグなどに人員と物資を輸送し、アフガニスタンでのテロ報復戦争ではパキスタンに難民支援物資を輸送しました。

 政府は、現中期防衛計画において空中給油機を4機導入する計画です。昨年度に発注した空中給油機の第1号機は2007年度に完成する予定です。

 3月11日、「自衛隊基地強化反対・名古屋空港の存続を求める会」が防衛庁にたいし基地機能強化反対の要請をおこなったさい、同庁担当者は空中給油機について「条件として滑走路2500メートル。4機は同じ基地に置く。輸送部隊に配備する」とのべています。

 同会は、この条件に適合するのは小牧基地であると見ています。航空専門誌も、中部国際空港開港後の小牧基地への空中給油機の配備を予想しています。空中給油機の配備はまぎれもない基地機能の強化ですが、県は「どこに配備するか国の方針が示されていない」として、配備反対を表明しようとしません。

 名古屋空港に隣接する三菱重工小牧南工場は、F15J、F4EJ、F2など主要な自衛隊機を製造・修理しています。同小牧北工場はミサイルを製造しています。近接する春日井市高蔵寺には空自最大の弾薬庫があります。

 いま、小泉内閣と自民、公明など与党は、イラクで米国がおこなった先制攻撃戦争に日本を参戦させるため、有事法制関連法案を成立させようとしています。

 有事法制の中核となる武力攻撃事態法案は、地方自治体が米軍にたいし「物品、施設または役務の提供」、兵たん支援を義務付けています。すでに米国は、民間空港の提供を日本に要求しています。

 米国がアジア太平洋地域で戦争を始めると、名古屋空港から前線へ軍需物資や燃料、人員を輸送する米日の軍用機が飛び立ち、前線から戦闘機が修理のために飛来するなど、名古屋空港が戦闘行動を支援する兵たん拠点とされる危険があります。

 県は、飛行場への離着陸を指示する交通管制業務を防衛庁に委託する方針です。有事法制が発動された場合、防衛庁による管制は軍事優先となるでしょう。

軍用飛行場を県費で支える

 自衛隊小牧基地の存在と有事法制のもとでの県営飛行場化は、県民の負担で戦争支援の拠点飛行場を支えるという軍事的本質をもつことを見る必要があります。県が着陸帯を取得し、設置管理者になるからといって、自民党県政のもとでは平和利用や基地機能縮小の保障にはなりません。

 有事法制と空中給油機配備に反対することは、名古屋空港の基地機能強化反対の焦点にもなっています。

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