芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」をめぐる大村秀章愛知県知事のリコール(解職請求)を求める署名が偽造されていた問題で、勝手に名前を使われた男性が本紙に怒りの証言をしました。リコール署名には、河村たかし名古屋市長や日本維新の会関係者が深く関与。捜査当局も動きだしており、真相の究明が求められています。
勝手に名前を署名簿に載せられたのは、愛知県内に住む山上博信さん(54)です。山上さんは、自らの名前が署名簿にあるか確認しようと思い、個人情報保護法に基づき選挙管理委員会に開示請求をしました。
「私の名前と住所が署名簿の8人目の欄に記載されていました。もちろん自分で書いた覚えはありません。署名には母印まで押されていたので、率直に驚きました」
リコール運動を主導した団体の会長は、美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長。事務局長は田中孝博・日本維新の会愛知5区支部長です。河村市長は全面的に支援してきました。
なぜ河村市長らはリコールに取り組んだのか―。
あいちトリエンナーレ(2019年開催)の企画展は、日本軍「慰安婦」問題の解決を目指してたたかってきた被害者がモチーフの「平和の少女像」などを展示しました。企画展には脅迫が相次ぎ、一時中止に追い込まれる事態に。企画展の中止を求めた河村市長に対して、大村知事は「検閲ととられても仕方ない。憲法違反の疑いが濃厚だ」と指摘し、再開に踏み切りました。
リコール署名は昨年8月末に開始。河村市長は、「日本兵士侮辱 慰安婦像展示 やらないかんよ 知事リコール」とツイートするなど、侵略戦争を肯定し、旧日本軍を美化する宣伝を繰り返します。日本維新の会副代表の吉村洋文・大阪府知事もリコールに「応援する」と賛同を表明しました。
昨年11月には、計約43万5千人分の署名が県内の選挙管理委員会に。ところが、県選管の調査で、提出署名の83・2%にあたる約36万2千人分に不正が疑われることが判明したのです。一体どうやってこれほど大量の不正ができたのか―。
大量不正 組織的か
■ 名簿の元データ・資金 どこから
愛知県選挙管理委員会の調べでは、大村秀章愛知県知事のリコールを求める署名で不正があったもののうち、約90%は「同一人により書かれたと疑われる署名」です。「選挙人名簿に登録されていない者の署名」も約48%あるといいます。
署名が始まった昨年8月末から署名提出までは2カ月と少し。この短期間で、署名を集めた個々人が大量に偽造するというのには無理があります。組織的な大量偽造ではないのか―。
■ バイトを募集
大手求人広告会社「タイミー」(東京都)は、署名を偽造するための求人とみられるバイト募集情報を掲載していた、と公表(17日)しました。この募集広告とされるサイトでは「佐賀市での名簿の書き換え作業」として募集。「データをお渡しするので、それをもとに修正を行っていただく業務です」としています。
同社は本紙の取材に「署名偽造に協力するアルバイトの募集案件が投稿されていたとすれば、大変遺憾」と釈明。そのうえで、刑事事件になったことから事業者側から具体的な内容を非公開にするよう求められている、と説明しています。
報道によると名古屋市内の広告関連会社の下請け会社が、タイミー社を通じて偽造作業をするアルバイトを募集していました。この広告関連会社は「回答することができない」としています。
リコール運動をすすめてきた河村たかし名古屋市長や、美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長は、偽造への関与を否定しています。
リコール署名は地方自治法に基づくもの。署名を改ざんしたり、水増しをしたりすれば、3年以下の懲役か禁錮、または50万円以下の罰金が科されます。総務省自治行政局の担当者は「リコール署名が成立していないからといって違法行為にならないわけではない。実際に改ざん行為が行われている」と言います。
■ 政治家関与は
不正が疑われる署名は約36万2千です。署名簿に書き写すための元データやアルバイトに払う資金は、どこから出たのか―。
愛知県の大手紙記者は「そこが問題だ。大量の名簿を持っているものは限られる。政治家が持つ名簿の可能性だってある」と指摘します。
勝手に署名簿に名前を載せられた山上博信さんはこう怒ります。「河村市長たちのような復古的な人たちが署名をすすめたことに危機感を覚えています。選挙で決まった首長に、どうしてもあらがわないといけない手段としてリコールという直接請求の制度があります。それを偽造した署名でやるのは許せない」
(2月22日 しんぶん赤旗)