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非常勤講師 残業代支給へ 名古屋市教委認める 運動の成果

 名古屋市教育委員会が公立中学校で働く非常勤講師5人に約130万円の未払い残業代があることを認め、支払うことを決めました。働き方の改善を求める非常勤講師の運動が市教委を動かし、全国の非常勤講師を励ます成果に結実させました。

 未払い残業代の支給を認められた4人は、愛知県内の非常勤講師らでつくる「臨時教員制度の改善を求める会」のメンバーです。1人は運動の中で加わりました。

 非常勤講師はフルタイムで働く正規教員や常勤講師と異なり、特定教科の授業などを時間単位で担当しています。正規教員には「時間外勤務と休日勤務の手当は支給しない」と定めた「給特法」が適用され、残業代の代わりに月給の4%が「調整額」として上乗せされています。

 非常勤講師には労働基準法が適用され、残業代の支払いを求めることはできますが、契約時間以外は勤務時間とされず、授業準備やテストの採点などで残業しても残業代が支払われていませんでした。

 「会」は昨年6~9月、非常勤講師の残業時間を調査し、最高で月78時間、月平均20時間に上ることを明らかにし、市教委に残業代の支払いを求めました。しかし市教委は「もともと任用時の時間数の中で勤務していただくことを各学校に指導している。残業代の支払いは想定していない」と認めませんでした。

 非常勤講師の一人は、契約時間の週12時間のうち11時間が授業。残る1時間で2学年、1週間分の授業準備や提出された課題の評価、テストの採点などをしなければならず、「契約時間内にはとても終わらない」状況。残業時間は多い月だと20時間を超えます。

 子どもたちとコミュニケーションを取り、よりよい授業につなげようと努力を重ねていますが、仕事の中身と契約時間が見合っていません。

 「自分だけが残業代を欲しいわけではなく、学校現場全体の長時間過密労働を何とかしたい」―。非常勤講師4人は同年11月、残業代支払いを求めて各学校を管轄する労働基準監督署に申告。労基署が学校長と市教委に労働時間の適正把握や必要な残業代を支払うよう指導を出し、残業代の調査、支払いにつながりました。

 日本共産党の本村伸子衆院議員は2月の総務委員会でこの問題を取り上げ、「職務の遂行に欠かせない業務を行った時間は労働時間にあたると考えられ、残業代を支払うべきだ」と指摘。厚生労働省も「使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」と答弁。総務省も労働時間の適正な把握は重要だと認めていました。

■ 働き方変える一歩に

 残業代の支払いを求める非常勤講師の申告を受けて、労働基準監督署は各校に立ち入り調査しました。就業時間や休憩時間など労働条件の明示がないことや、労働時間が把握されていないことが労働基準法と労働安全衛生法に違反すると判断。今年2~3月、学校長と市教委に是正勧告書と指導票を交付し、▽労働時間を客観的な方法で把握すること▽残業の実態調査を行い必要な残業代を支払うこと―を求めました。

■ 「葛藤があった」

 非常勤講師の一人は「自分は学校の一部という意識が強く、労基署の職員が調査に入ってきたことに葛藤があった」と当時を振り返ります。それでも、教員の働き方の改善を周りに訴える中で、新たに非常勤講師1人が残業代の請求に加わりました。

 市教委が今回認めた未払い残業代は昨年4月~今年3月のもの。各校の校長が本人から聞き取り、勤務記録などを調査しました。

 市教委は、「授業準備やテストの採点は通常業務で間違いない。各校で勤務時間の適切な管理ができていなかった」として、2カ月程度で支払う予定です。

 今年度から始業と終業時刻を学校と本人で確認する制度を始めたとして、タイムカードの導入は「現段階ではない」とコメントしています。

 「会」は集会での実態告発や政府要請などにも取り組んできました。労基署に申告した一人は「申告からほぼ1年。やっとここまできたという感じ。残業代の支払いは長時間過密労働になっている教職員全体の働き方を変えていく第一歩だと思う」と話します。

 名古屋市の公立小中学校、特別支援学校で働く非常勤講師は約1400人。市教委は5人以外への対応について「今現在は残業の調査はしない」としていますが、記録に基づいて請求すれば認められる可能性があります。

■ 「大きな意味が」

 「会」の上村和範代表委員は、「学校現場の時間外労働の違法性が認定され、市教委が改善を実施したことは画期的です。最大の焦点になっていた契約時間外の授業準備や成績処理などの時間を『労働時間』と認め、残業代が支払われることに大きな意味がある」と評価します。

 名古屋市だけでなく全国の学校で非常勤講師の残業代支払いが実現し、長時間労働に歯止めをかけることができれば正規教員の働き方を見直す転機になると期待を込めます。

 今後は、市教委に対してタイムカードで非常勤講師の勤務時間を把握することや、すべての非常勤講師の時間外勤務を調査し、残業代を支払うことを求めていくとしています。

 今回申告した非常勤講師の多くは、定年退職して再雇用された教員です。これから教員をめざす後輩たちに、希望と誇りをもって仕事をしてほしいと願う先輩としての切実な思いが現実を少しずつ動かしています。

(11月24日 しんぶん赤旗)