■ 100超の団体・個人が要請書
名古屋市で来年度から使用される中学校の歴史教科書をめぐって、侵略戦争を美化し、憲法を敵視する育鵬社の教科書採択を何としても阻止しようと市民の運動が広がっています。
公立小中学校で使う教科書は原則として4年に1度採択されます。学校を設置する都道府県や市町村の教育委員会が審議をして8月中に採択。現場の教員の研究報告や地域の展示会で寄せられた保護者・市民の意見なども参考にします。
文部科学省は3月中に中学校教科書の検定結果を公表。「合格した」社会科の歴史教科書は山川出版、東京書籍、教育出版、日本文教出版、帝国書院、学び舎、育鵬社の7点です。
侵略戦争を美化し、改憲に導く育鵬社の教科書は、安倍晋三首相と自民党が支援しています。
■ 各地で不採択に
子どもたちに「戦争を肯定する教科書」を渡さない市民の会の三浦明夫さんは、育鵬社の歴史教科書について「侵略戦争の事実に向き合おうとしていない」と批判します。
アジア太平洋戦争を「自存自衛」で「植民地支配から解放」する戦争であったと記載していることにふれ、「当時の政府の主張を採択する形をとって、戦争を肯定・美化し歴史を改ざんしています。日本国憲法が『押し付けられた』ものだとして制定過程をゆがめ、改憲必要論への伏線にしている」と危機感を示します。
今年の採択をめぐっては、2015年に育鵬社の教科書を採択した東京の都立中高一貫校・特別支援学校、神奈川県横浜市、藤沢市、大阪府四條畷市、河内長野市で不採択になっています。
■ 再審議で阻止を
名古屋市は7日に再審議が行われます。7月29日の第3回採択会議について三浦さんは、教育委員6人のうち2人が育鵬社を強引に推していたと話します。「7日の会議で教育出版3票、育鵬社3票となれば、議長の教育長の意向で育鵬社に決まる可能性がある。採択させないために一人でも多くの市民に『育鵬社を使うな』と意見をあげてほしい」
名古屋市は15年、教育出版の教科書を採択しました。河村たかし市長が日本軍「慰安婦」や南京大虐殺を否定する発言を行う中で市民の運動が、育鵬社の採択を押しとどめました。
今回も「市民の会」を先頭に学習会の開催や、教育委員会への請願・要望書の提出、意見陳述、会議の傍聴など行動を積み重ねています。
新日本婦人の会は、地域の班を中心に図書館などで行われる教科書展示会で感想用紙を提出する取り組みや学習会を進め、教育委員会へ「育鵬社不採択を」の声を届ける要請をしています。
■ 運動さらに広げ
愛知県歴史教育者協議会や名古屋市教職員労働組合など100人以上の団体・個人は、育鵬社の不採択を求めて教育委員会に要請書を送付。「市民の会」は、運動をさらに広げようと平和団体や個人などにも緊急要請書を教育委員会に送るよう呼び掛けています。
新婦人愛知県本部は、「未来をになう子どもたちによりよい教科書を準備していくのはおとなの責任です。歴史の事実をゆがめ、憲法の価値を否定する育鵬社不採択の流れを名古屋でも実現させたい」としています。
(8月7日 しんぶん赤旗)