国際芸術祭・あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」が市民や作家らの運動で、中止から66日ぶりに再開して2カ月余。当事者が事件を振り返り、課題と教訓を深め合っています。
■ 当事者が課題・教訓深め合う
「会期末まで1週間足らずという短さでしたが、地元のみなさんの強い働きかけがあり再開できた」
21日。名古屋市で開かれたシンポジウム「『表現の不自由展』中止事件の本質とは何か」の冒頭、不自由展実行委員会の岩崎貞明さんは、こうあいさつしました。
不自由展は、「慰安婦」を象徴する「平和の少女像」などに脅迫を含む抗議が殺到。8月1日の開幕から3日で中止され、10月8日に再開しました。
再開を求めて連日、スタンディングや署名などを展開した市民の運動や作家のボイコット、各団体の抗議が全国で広がり、不自由展実行委の仮処分申し立てが芸術祭実行委に展示再開を迫りました。
岩崎さんは入場者が極端に制限され、厳しい管理の下での再開だったが検閲を押し戻した大きな成果だと強調しました。
抗議が激化したのは、「日本国民の心を踏みにじる行為で、行政の立場を超えた展示」(河村たかし・名古屋市長)などとした政治家の発言があったからです。
■ 報道に問題
日本政府の公式な立場は、「慰安婦」募集などの強制性を認め、おわびと反省を表明した河野談話(1993年)です。
岩崎さんは、「慰安婦問題が無かったとするのは明らかに事実誤認です。それにも関わらず、こういう意見もあると『相対化』して報道されたことは問題だし、それが歴史修正主義者の狙いです。事実誤認だと評価を加えてマスコミは紹介すべきだ」と指摘しました。
一方、愛知県の検討委員会(座長・山梨俊夫国立国際美術館長)は18日、中止決定を「やむを得ないものであって、表現の自由の不当な制限には当たらない」とする調査報告書をまとめています。「作品選定で『政治プロパガンダ』と批判をうける余地が生じた」「作品の制作背景や内容説明が不十分」などと言及しました。
同実行委の岡本有佳さんは、安全管理を理由にした展示中止が伊勢市美術展覧会や「KAWASAKIしんゆり映画祭」など各地で起きていることを指摘。検討委の判断が「類似事件の理由づけにされている」と話しました。
アライ=ヒロユキさんは、「キュレーション(展示企画)批判」を通じて検閲を正当化する検討委を批判。文化庁による補助金不交付(行政の経済的圧力)と、芸術祭実行委による展示中止(現場での圧力)という二重構造で検閲が起きたと指摘。安倍政権に不都合な表現がさまざまな形で制限されている実態を示しました。
■ 右寄り対策
県の検討委は、副座長に大阪府・市特別顧問の上山信一氏を据え、国際政治学者の三浦瑠麗氏や木村幹・神戸大学大学院教授を「有識者」として意見聴取しています。
中谷弁護士は「明らかに右寄り対策だ」と指摘し、こう訴えました。「検討委の役割や政治家などの思惑を見抜いたうえで私たちは、この国をどうしていくのか、今考えないと危険なところにある。この事件はそれを浮き彫りにした」
(12月24日 しんぶん赤旗)