愛知県春日井市の亜炭鉱跡の下にリニア中央新幹線トンネルが掘られることに沿線の住民は大きな不安を抱いています。春日井リニアを問う会の川本正彦さん(73)は、「亜炭鉱跡の下にリニアルートを計画しながら、JR東海はまともな調査を行っていません。住民の声を無視して工事を進めることは許されない」と訴えます。
春日井市内のリニアルートは17㌔㍍全てがトンネル。保守基地・非常口1カ所と3カ所の非常口が建設されます。
■ 振動で水抜け?
坂下非常口工事ヤードがある上野町から東名高速道路まで3㌔の間の地下に亜炭鉱跡が広がっています。この亜炭鉱跡があるリニア計画路線上には中学・高校、大学があり、住民2800人が生活しています。
川本さんは、「現在、亜炭鉱跡の坑道の中は地下水が充満して安定を保っているといわれています。トンネル工事やリニアの走行による振動で水が抜けて陥没が起きるのでは」と危惧します。
実際、2015年には3か所で陥没が起きています。2月にはリニア路線から50㍍の中部大学近くで深さ2㍍・直径2㍍の陥没が発生しました。
1カ月後の3月にはリニア路線から120㍍の出川町「前平ちびっこ広場」のブランコの根元で、深さ2㍍・直径5㍍の陥没が起きました。ここは以前、出川炭鉱の立て抗口があった所。亜炭鉱による陥没と認定され、国の基金で復旧工事が行われました。
川本さんの調べでは86年から現在までに少なくとも35カ所で陥没が起きています。
ところがJR東海はまともに調査していません。環境影響評価書では亜炭鉱採掘跡の文献調査だけ。ボーリング調査も6カ所だけです。「国にも鉱区図は残っていますが地下坑道の記録は残っていません。これで亜炭鉱坑跡の詳細を把握していると言えるのでしょうか」と川本さんは語ります。
JR東海は「シールド工法で施工するため地盤沈下しない」として環境保全調査を行っていません。しかし17年8月には首都高速道路横浜北線でシールド工法による地盤沈下が起きています。
■ 「談合」口閉ざす
17年2月に市内初の坂下非常口での工事が着工されました。川本さんは「工事による住民の生活環境被害も深刻だ」と指摘します。坂下非常口工事ヤード付近の住民からは「工事車両が出入りするたびにチャイムが鳴り、一日中うるさい」「とにかくやかましい。迷惑だ。リニアができても私らには何もいいことはない」などの訴えも。
今後、本格的な掘削工事に入れば深夜3時まで工事が行われます。「寝ている間も工事をやられたら騒音と振動で、どうなるの」と不安の声があがります。
非常口工事が終わる予定の19年3月まで、工事車両は1日最大140台走行。月に一度は、生コンミキサー車が1日600台工事ヤードを出入りします。非常口工事後も27年までトンネル工事が続きます。工事車両は、今でも渋滞が起きている道路を走ります。さらに渋滞がひどくなり環境の悪化が懸念されます。
他にも家屋への影響、騒音・振動や粉じん、井戸水の枯渇などさまざまな不安の声があがっています。しかしJR東海は自治体や住民との間の環境保全協定も結ばず、不誠実な対応をとり続けています。
大手ゼネコンによるリニア工事談合疑惑が問題となるさなかの昨年12月16日には、市内2カ所目となる西尾保守基地・非常口の工事ヤード整備説明会が行われました。
「JR東海は担当社員が関わった疑惑も一切説明しないまま工事を進めています。談合疑惑の工事を進めることは許されません。世界に例をみない長大なトンネル工事は自然環境と生活環境破壊を避けて通れません。工事はすぐに中止すべきです。JR東海に事業認可した安倍政権と国土交通省の責任が問われます」と川本さんは訴えます。
(2月3日 しんぶん赤旗)