2007年に認知症の男性=当時(91)=が、愛知県大府市内の駅構内の線路上で列車と衝突して死亡した事故で、JR東海が遅延によって損害が生じたとして、遺族に720万円の賠償を求めていた裁判の控訴審判決が名古屋高裁であり、全額の支払いを命じた一審判決の賠償額を約360万円へと半減することが命じられました。
遺族側代理人の畑井研吾弁護士は、判決が遠方に住む長男に監督義務を認めなかったこと、JR東海側が駅構内にある線路に降りる扉に施錠していなかったなどを減額の理由に挙げたことを一定程度評価し、「認知症患者と在宅介護が増えている中、一審判決をすべて覆すことを求めてきたので残念だ。今後の方針は遺族と話したうえで決めていくが、こうした案件で賠償が生じる前例をつくってしまわないために、法的に争っていくべきではないかと思う」と話しています。
一審判決(名古屋地裁、13年8月)は、同居する妻が目を離さずに男性を見守ることを怠り、監督義務を負う横浜市の長男も対策を講じなかったとしてJR東海の主張を認め、全額の支払いを命令。不服とした遺族側が一瞬の隙もなく付き添うのは不可能だとして控訴しました。一審判決には専門家や医師からも、認知症患者を閉じ込めざるを得なくなるなどの危惧や懸念の声が上がっていました。
※介護の実態考えてほしい 「認知症の人と家族の会」代表理事 高見国生さん
判決は、妻だけに賠償を請求し、額も一審の約半額としました。しかし、家族の責任を問うたことに変わりはなく、まったく許せない判決です。
いま、認知症の人の主な介護者は配偶者で、多いのは老老介護です。今回の判決で、家族の介護の負担はますます大きくなると思います。
判決では、監督者責任などの法律論がいわれていますが、私たちは法律にあわせて介護しているわけではありません。介護の実態や認知症の人の実態に合わせて考えてほしい。
家族が徘徊(はいかい)を防ぎきれないのと同様に、鉄道会社も線路への侵入を100%防ぐことはできないもとでは、被害の社会的な救済制度をつくることが必要だと考えます。